0:00 | キャスター:核の専門家たちは事故から3年が経過したいまも、福島第一原発でなにが起こったのか、解明するために苦闘しています。原発は北東日本の上空に放射性物質を放出しました。専門家の多くは、放射能放出は水素爆発のあとで起こったとする見解を維持しています。しかし、前回のニュークリア・ウォッチでお聞きしたように、別の見方をする専門家もいます。NHKワールドの岡本賢一郎がお伝えします。 |
0:24 | 岡本賢一郎:わたしたちは調査のために福島県内のこのモニタリング・ポストまでやって来ました。これは、原発から5.6キロの地点に設置されています。ここで核事故後に記録されたデータは、驚くべき情報を含んでいました。
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0:45 | この地図は放射性セシウムの拡散を示しており、事故後に収集されたデータにもとづいています。 |
0:55 | そして、これはモニタリング・ポストの詳細なデータを示しています。グラフは午後2時40分時点で放射線レベルの鋭い上昇を描いています。 |
1:06 | 驚いたことに、この急上昇は最初の水素爆発から1時間近く前のことです。それは福島第一原発での重大な作業の後のことでした。
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1:20 | そのころ、格納容器の内部に水蒸気が蓄積したために、圧力が急激に上昇していました。反応炉構造材の健全性が危険にさらされていました。 |
1:35 | 午後2時から少しあと、運転員らは1号炉のバルブを開き、ベントという操作で圧力を下げようとしました。東京電力の職員らは大気中に放出される放射性粒子の量は限定的であると説明しました。 |
1:55 | 東京電力・小森明生:原子炉の下に水がありまして、排出される水蒸気はその水のなかを通りぬけますので、放射性粒子があるとしても、出てくる量は非常に少なくなるでしょう。 |
2:15 | 岡本賢一郎:あの当時、東京電力が説明したベントの経緯は次のとおりです。 |
2:21 | 反応炉の内部に蓄積した水蒸気は水のトンネルを通りぬけます。水はフィルターの働きをすると考えられました。水が放射性粒子を捉えます。核技術者たちは、このシステムが放射性排出物を0.1パーセントに抑えると信じていました。 |
2:45 | モニタリング・ポストから得られたデータはこの説明と明らかに矛盾しています。そこでわたしたちは、科学者たちにこの0.1パーセント説を検証していただくようにお願いしました。そして、ベントそのものが想定されていたよりも大量の放射能を放出していたのかどうか、調べていただきました。 |
3:09 | このイタリア北部の研究所は原発の安全装置を試験することを専門にしています。 |
3:17 | 研究所は福島第一原発のベント・システムの状態を再現することを引き受けてくれました。 |
3:24 | 一回目の実験では、水蒸気を常温の水に通しました。水蒸気は即座に冷却され、泡になりましたが、ほとんど瞬間的に消失しました。つまり、放射性粒子の大部分もまた水に捕捉されたことになります。このシミュレーションは、0.1パーセント説と一致しています。 |
3:55 | 核事故を分析した専門家たちは、反応炉の内部の状況はこれと違っていたと信じていました。 |
4:05 | 専門家たちは、メルタダウンによって生成した熱いガスが、ベントの前に水と相互作用したといいます。 |
4:15 | エネルギー総合工学研究所安全解析部長・内藤正則:サプレッション・プール(圧力抑制プール)の中の水温は、その時点ですでに高くなっていたと思う。 |
4:19 | 岡本賢一郎:ニ回目の実験では、上層部の水温を高めました。 |
4:27 | 蒸気を注入すると、大量の泡が発生し、水面へと湧きあがりました。 |
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4:43 | 二回目の実験は、最大50パーセントに達する放射性粒子が大気中に放出されたことを示唆しています。これは、先行したシミュレーションより500倍多いことになります。 |
5:02 | わたしたちが実施した検証は、決定的な安全機能が想定通りに働かなかったことを示唆しています。 |
5:12 | そしてまた、福島第一原発のなかで起こっていることについて、わたしたちの理解が非常に限られていることも思い知らされます。 |
5:23 | キャスター:東京電力の担当者は、ベントのさいになにが起こったのか、またその結果、どれほどの量の放射能が放出されたのか、正確に究明しようと今でも努めているとNHKに告げました。 |