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スミソニアン誌「人類絶滅後の文明の遺産は地殻に掘った穴」

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Smithsonian.com 総合雑誌スミソニアン

人類絶滅後の文明の遺産は地殻に掘った穴

人類文明最後の遺物は、われわれが地球に掘り進める穴になるかもしれない


(Image Source/Corbis)


メアリー・ベス・グリッグス Mary Beth Griggs

SMITHSONIAN.COM
2014年8月6日


人類が絶滅し、あるいは地球を完全に去るとすれば、なにが残されるのだろうか? 建設物や道路がたちまち植物と自然に掻き消されてしまうのは、出来のよい世界滅亡もの映画が描くとおりである。だが、ギズモドは最近の論文で、塔や記念碑は時の試練に耐えられないが、われわれが掘る穴は残るかもしれないという。


人新世ジャーナルに公開された論文の著者らが「これほど地殻の深くまで侵入し、あるいはこれほど大規模な深部地下改変をなした生物種は他にない」と書いたとおりである。著者らが指摘するように、動物が残す巣穴やトンネルは、地表からせいぜい数メートルの深さに達するだけである。植物はもっと大掛かりな根系を形成し、数十メートルまで広がることがある。だが、わたしたちの掘削孔、トンネル、坑道、貯蔵施設に比べれば、他の生物種はいまだにマイナー・リーグで競い合っている。


だが、小動物の穴にさえ耐久力がある。動物の穴の生痕化石が化石記録のいたるところに残されており、著者らは、地球の表面や地下に残された、もっとがっしりした刻印はさらに永く地質年代にわたって存続しそうだと述べる。


著者らは、地表の下に何キロも延びる、ほんとうに深い穴は、地球表面の様相に影響を与える風化作用と浸食作用から守られ、数千万年、あるいはもっと長く地質記録に残ると推定する。地下核爆発の遺跡など、他の独特な人工事物もまた、途方もなく長い期間、永続することだろう。


サイエンティフィック・アメリカン誌は、この人新世ジャーナル掲載論文の主著者が、人類が地球にもたらす影響によって定義される新しい地質年代、つまり人新世に人類が移行したのか否かの答えを解明する作業部会の座長であると指摘する(2016年までに結論が出る予定)。地質学者のなかには、人新世が公式用語とされるためには、地質記録で人新世が始まったとされる時期の明確な境界が必要であると主張する向きもある。地殻に対する人間と機械による撹乱がその境界とみなされるかもしれない。


[訳者のお断り:
原文に貼られたリンクを割愛しました。必要な方は、原文でどうぞ…
http://www.smithsonianmag.com/smart-news/humanitys-legacy-might-be-holes-we-leave-behind-180952266/

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2015116日金曜日



ご案内【6・20講演シンポジウム】高まる資金流用への批判~復興資金を被災地、被災者に戻せ!

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6・20講演シンポジウム


☆★☆ 高まる資金流用への批判 ☆★☆


復興資金を被災地、被災者に戻せ!

      

被災地や被災者への支援復興のために予算立てされた復興資金が、全国の市町村の清掃工場のごみ焼却炉などの建設補助金として使われています。


本年5月12日、富山県高岡地区広域圏事務組合でも、71億円の補助金を戻すことを求めた住民訴訟が提訴され、大阪堺市に続き、このお金を被災地に取り戻す試みが、大きく広がりつつあります。


東日本大震災~原発事故後、先の3月11日で、4年を過ぎ大手メディアも一斉に、被災地に目を向け、被災地の復興の遅れや被災者や避難者の生活を伝えています。


しかし震災復興が遅れている大きな理由として、震災復興予算が官僚機構によって利権流用され、今も放置されている事実については、ほとんど報道されていません。


被災地への復興資金を国の各省庁の事業計画に流用するのは、火事場泥棒のような許せない行為です。このお金は、国民へのサービス(高速料金の無料化、育児手当)などを棚上げし、増税する中で作り出された復興予算です。


絆キャンペーンの下、計画を立てたがれきの広域化処理(400万トン)が、わずか4%の18万トンで終わり、その結果残った巨額の予算の使い道が、焼却炉の建設費への補助金だったのです。



日時:6月20日(土)19時~21時半(18時半開場)

場所:東村山駅 駅ビル(ステーションサンパルネ)2階 コンベンションホール

   (042-395-5115)  資料代500円

主催:NPOごみ問題5市連絡会&同開催東京実行委員会


来る6月20日の講演シンポジウムは、下記の講師で行われます。


講師:

川渕映子 東北AIDE(エイド&「復興資金返さんまいけ・富山」代表 

  飛田晋秀 写真家(福島の写真家)

  青木泰  環境ジャーナリスト


川渕映子さんは、この度住民訴訟を、応援する本件訴訟の支援団体「復興資金返さんまいけ・富山」の代表です。東北大震災以降は、すぐに東北に大型バス1台をチャータし、数十人で、一週間に1度駆けつけるなど、驚異的な支援活動を行なってきました。進まない東北の復興に「お金が無いと」何度も聞かされる一方、地元の高岡地区の清掃工場に巨額の復興資金が投入されていたおかしさを知り、「復興資金返さんまいけ・富山」の代表になりました。


飛田晋秀さんは、震災とフクイチ事故前には、働く人を撮る写真家でした。震災と事故後、福島で生活することを選んだ親とともに、郡山市に残り、福島を取り続けています。撮り続けた写真は、全国やヨーロッパにも展示されています。飛田さんからは、福島の復興の現状を話していただきます。


青木泰さんは、東北支援、絆キャンペーンは、巨額の復興予算を予算化するための仕掛けでしかなく、がれきトリックの下に、資金流用がおこなわれていた事実を話していただきます。


3人の話の中から明日をつかみ取ってゆきたいと企画しました。


NPOごみ問題5市連絡会&同開催東京実行委員会



【関連サイト】

高岡提訴と安倍が守ろうとするもの 環境ジャーナリスト 青木泰

復興資金流用化問題で、富山県高岡地区広域圏事務組合(高岡市、小矢部市、氷見市)3市の住民が、復興資金から同組合の焼却炉建設費の補助金として、総額71億円を支給したことに対して、返還を求める住民訴訟を起こしました。
今回の提訴の対象とした金額は、23億円ですが、そのニュースをお届けいたします……
画像出処: 青木氏FB

高岡広域エコ・クリーンセンター





現代史家、ジョン・ダワーによる核産業批判「フクシマと核惨事の制度的不可視性」

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ECOLOGIST
フクシマと核惨事の制度的不可視性
Fukushima and the institutional invisibility of nuclear disaster

2011324日、黒煙をあげる福島第一原発。

Photo: deedavee easyflow via Flickr.



ジョン・ダワー John Downer
20141220



核産業とその支持者らはさまざまな言い草を繰り出して、核の破局的惨事を正当化し、弁解しようとしたとジョン・ダワーは書く。そのどれひとつとして、筋の通ったものでなかったが、彼らの目的――政治とメディアの極致を操り、世情に「安全」を訴える手練手管――には役立った。だが、それほど安全であったなら、核の責任限度がこれほど低いのはなぜだろう?




「本物の競争市場で代替エネルギー事業者と角を突き合わせたりしなければならないなら、過去において、だれも核反応炉を建造しなかっただろうし、今日において、だれも建造しないし、反応炉の所有者は、できるだけ急いで核事業から撤退することだろう」


英国政府の元主席科学顧問、サー・デイヴィッド・キングは事故が勃発してからまもなく記者会見の場で、機能停止を誘発した天災は「極めて想定外の事象」だったと断言した。


そのさい、彼は事故の原因になった地震と津波の尋常でない性格を強調する事故直後の解説をいろいろと並べ立てた。


そのころ、さまざまな専門家集団が同じような主張をし、ジャーナリストはその主張に追随した。あるコンサルタントがニュー・アメリカンに書いた次のような嘆き節が一般的な論調を代表している――


……フクシマ『惨事』は反核集会のスローガンになるだろう。原発が設計耐震性の6倍のエネルギーに持ちこたえ、波高15メートルと推測されている津波が海抜10メートル地点の予備発電機を押し流したことを憶えている人はほとんどいないだろう


このようなあらゆる説明で率直または暗に表明される主張は、フクシマの直接原因は非常に稀であり、核施設の将来とほとんど無関係であるというものである。日本を襲った特異な天災を除いて、原子力は安全であり、あの天災は日本に特有の問題であり、現実的な時間枠の範囲内で、どこでも二度と起こることはないと主張する。


説得力はあるが薄っぺらな論理


この論理はさまざまなレベルで薄っぺらである。ひとつには、天災の「異常性」は疑わしく、地震にしろ、津波にしろ、おどろくべきことでないと信じるだけの、れっきとした理由がある。なんといっても、あの地域は地震活動が盛んであることは周知のことであり、あの地震は前世紀も入れて4番目の大きさの強度にすぎなかった。


4年前の2007716日、柏崎刈羽原発が予想外のマグニチュードの地震に被災したとき、日本の核産業は耐震性不足に直面さえしていたのである。


これをきっかけに、何人かの専門家がフクシマの耐震性不足を強調したが、当局者らは、いまフクシマに関連していわれていることと同じようなことをいった。津波も、前例のないことではなかった。


同じ地域で8697月に同じようなことが起こっていたことは、地理学者たちによく知られていた。これは確かに遠い昔のことだが、データが1000年周期の再来を示していた。


一方、津波がなかったとしても、地震だけでもメルトダウンを引き起こしたのかもしれないと指摘する報告――作業員の証言により、津波の前に警報音がなっていたという数々の証拠に支えられている見解――がいくつかあった。日本の原子力委員会の委員長。班目春樹は、フクシマの運営会社、東京電力が冠水を予測できたことを否定したと批判した。


日本はそのような災害に「特に弱い」という主張も同じように疑わしい。たとえば、ウォールストリート・ジャーナルが20117月、米国の反応炉が設計に予測を反映されていない地震のリスクを抱えていることを業界と規制当局が知っていたことを示すNRC(原子力規制委員会)の私的Eメールについて報道した。


この記事は、規制当局がこの新たな知見に対応する措置をほとんど、あるいはまったくとらなかったと指摘した。まるで彼らの危惧を実証するかのように、フクシマから6か月もたたない2011823日、ヴァージニア州ミネラルのノース・アンナ原発が設計上の想定を超える地震に搖さぶられた。


事故はすべて「独特」――次の事故も「独特」


さらに、日本を襲った事象を例外として、原発になんに対しても安全であるという暗黙の断定を念頭においた「独特のできごと、また脆弱性」という言い草を疑うだけの、もっと大きな基本的な理由がある。


2011年の地震と津波は二度と起こらないので、原子力は安全だと主張する連中は、要するに、2011年の事態は予想できなかったが、これ以外はすべて予想できるといっていると理解しておくことが重要である。


それにしても、ちょっと考えるだけで、これはとてもありえないことだとわかる。これは――フクシマを含め、多数の工学的災害が少なくとも部分的には、技術者らが考えもしなかった条件が原因で勃発していたにもかかわらず――専門家は核施設が耐用期間中に遭遇する課題のすべてを包括的に予測すると確信できる(あるいは、工学用語でいえば、すべての核施設の「設計基準」は正しい)と想定している。


セーガンが指摘するように、「これまでに起こらなかったことは、いつでも起こる」。911のテロ攻撃はおそらく、このジレンマの最も写実的な実例だろうが、ほかにもどっさりある。


ペロー(2007)は、権威筋が公式に認識しない潜在的災害シナリオの光景をきめ細かに探求しているが、彼にしても、そのすべてを考察していたとはとてもいえない。


もっと多くのことがいつでも仮定されている。たとえば最近、研究者たちが大規模な太陽嵐の影響を予測したが、かつて核以前の時代、これが北米とヨーロッパの電気系統を何週間にもわたって機能停止させたことがあった。


非典型的および/または修正可能な人間の弱点


事故が繰り返さないことを立証するために言い立てられる、フクシマを説明する二番目の論拠は、原発を運営し、または規制していた人びと、そしてその人たちが仕事のよすがにしていた制度的文化に焦点を絞る。このレンズを通して事故を観察しがちな傍観者は、いつも変わらず、それを人間の弱点――エラーか不当行為、またはその両方――の結果であると解釈する。


そのような言い草の大多数は、認定する不手際をフクシマに特有の規制または運営にまつわる事情に関連づけており、したがって、フクシマを「核」事故として扱うより、「日本的」事故として描写する。


たとえば、多くの人たちは米国と日本の規制当局の違いを強調し、しばしば日本の規制機関(原子力安全・保安院)は経済産業省に従属していると指摘し、そのため、保安院の安全確保責任と経産省の核エネルギー推進責任との利益相反が生じていたと主張する。


彼らはたとえば、保安院は国際原子力機関(IAEA)が先だって別の施設が地震に被災したさいに発表した報告書で独立性の欠如を批判されていたと指摘する。あるいはまた、保安院が核産業に対する国民の信頼を損なうのではと恐れるあまり、IAEA新基準の施行を拒んでいたことを示す証拠があると指摘する。


他の説明は、施設の運営会社、東京電力に矛先を向け、著しく「怠慢」だと断罪する。この流派に共通の断定とは、たとえば、破局的事故にかかわりのあった重要な循環パイプのひび割れのデータなど、東電は長年にわたり数々の規制違反を隠蔽していたというものである。


これらの説明には意味合いがふたつある。その一、「わが国」の運営会社は「規則を遵守している」ので、(「わが国」がどこであれ)このような事故は「わが国」で起こらない。その二、これらの失策は修正可能であり、だから、同類の事故は、日本でさえも、二度と起こらないだろう。


フクシマにまつわる人間の弱点に関する説明が、これらの弱点が日本を超えた業界全体の特性であるとあえて描写している場合、やはり大多数はこれらの弱点は根絶できるものであると解釈している。


たとえば20123月、カーネギー国際平和基金はフクシマにまつわる一連の組織的弱点を強調した報告書を発行したが、その弱点のすべてが日本にだけ意味があるわけではないと考察されていた。


それでも、報告書――標題『フクシマが予防可能だった理由』――はそのような弱点は解消可能だったと論じる。「最終的な分析として、フクシマ事故は原子力にともなう事前に未知だった致命的な欠陥を露呈するものではなかった」と、報告は結論した。


IAEAが大急ぎで発表した反応炉監視強化策『5点計画』など、フクシマ後の核にまつわる世界中の権威筋の動きと見解に、これと同じメッセージが反響しており、管理の見直しと改革を約束している。


例外神話


しかしながら、先の外因的な災害にまつわる言い草と同じく、これら「人間の弱点」説の論理もまた薄っぺらである。たとえば、日本人の不正行為と失態が掻きたてた編集者の驚愕にもかかわらず、そのどちらも例外ではないと信じるだけの立派な理由がある。


たとえば、日本が複雑な工学基盤を管理することにかけて第一級の評判を得ていることを否定するのはむつかしいだろう。あるワシントン・ポストの論説も次のように標題されている――「競争力があり、技術の優れた日本人が完璧に安全な反応炉を造れないのなら、だれが造れる?」。


日本人の管理の弱点に関する報告は、規制の欠陥、運転員のエラー、企業の不正行為に関する報告が、原子力と報道の自由を備えた国のどこでもあふれているという事実に関連づけて考察されなければならない。


それにまた、事故調査が国の安全行政の変化を見つけてきたが、後にさらなる精査を拒まれている長い伝統がある。


たとえば、西側の専門家がチェルノブイリに関してソ連の核産業の実務を非難したとき、ソ連人がスリーマイル・アイランドのような事故はソ連で決して起こらないと主張し、西側の安全文化のお粗末さを強調していた言い草を無意識のうちに言い返していたのだ。


「人間」の問題は潜在的に解決可能であるという主張は、操作エラーがあらゆる複雑な社会・工学システムに内在する特質であると信じるだけの有無をいわせぬ理由があるので、維持するのはむつかしい。


たとえば、技術的な日常業務でさえ、じっくり観察すれば、机上の設計で見るよりも、現場では必然的・不可避的に「粗雑」であることがわかる。


このように、ヒューマン・エラーと違反行為は曖昧模糊とした概念なのである。ウィン(1988154)が観察したように――「安全でない、または無責任な行為に、技術的なルールを拡大解釈し、適用することは、事後に解明を迫るプレッシャーがあったとしても、明らかに特定されることは決してない」。「違法行為の説明」の文化的に満足する性格は、それ自体が慎重さを要請する大義であるべきだ。


これらの研究は、最もおおまかな規則でさえ、ときには解釈を要請し、不確実な条件のもとで決定を下さなければならない状況から作業員らを解放しないことを示すことによって、「完璧な規則遵守」の観念を台無しにする。


わたしたちはこの意味で、特にフクシマが予防可能だったとする説明は、全般的に核事故が予防可能であるとする証拠にならないと深く認識すべきである。


類推で論じること――いかなる特定の犯罪も避けることができた(そうでなければ、犯罪に当たらない)と論じることは真であるが、わたしたちはこのことから、犯罪という現象を撲滅できると決して推論しないだろう。あらゆる複雑な社会・工学システムと同様、核の世界に人間の弱点はある程度まで付きものである。


また、核施設に求められる信頼性に関連して、そのレベルが常に非常に高いはずだ、あるいは少なくとも、それに対するわたしたちの確信があまりにも覚束ないと考えるのが安全である。したがって、人間の弱点と不正行為を研究し、理解し、対処する価値が疑う余地なくあるが、それらが「解決した」と結論することを避けるべきである。


施設設計が代表的なものでなく、また/あるいは修正可能である


上記で概説した、フクシマの環境と運営にまつわる言い草と並んでいわれているのが、施設そのものを強調する言説である。


こちらは、フクシマの反応炉(GEマーク1型)が他のたいがいの反応炉を代表するものではないと論じ、同時に、同じように危険であるいかなる反応炉も設計を「修正」することによって安全になると約束して、事故との関連性を核産業全般に限定する。


この流派の説明は、しばしば施設の老朽化を強調し、反応炉の設計が時間をかけて変更され、おそらくより安全になっていると指摘する。ある英国の公僕は部内のEメールで、この言説を体現し、それを全面に出した決定を伝えたが、(後にガーディアン紙に掲載された、その文面で)次のように断言している――

われわれ(事業革新・職業技能省)は…日本における事象が劇的な様相ではあるが、この1960年型反応炉に付きものの安全性推移の一環であるにすぎないことを示す必要がある


このような形で反応炉の老朽化を強調することが、災害直後のフクシマ論議の主流になった。たとえば、ガーディアン紙のコラムニスト、ジョージ・モンビオト(2011b)は、フクシマを「安全特性が不適切な老いぼれ施設」と書き表した。


彼はその機能停止を、隣に立地しながら、津波に耐えた福島「第二」原発のような、後の設計の品位をあげつらう証拠にするべきでないと結論した。「40年前に造られた施設を21世紀の発電所に反対する主張で使うのは、ヒンデンブルグ惨事を引き合いにして、現代の空の旅が安全でないと言い張るようなものだ」と彼は書いた。


不十分な津波災害に対する深層防護規定」(IAEA2011a13)といった他の説明は、反応炉の設計を強調しているものの、より一般化しうる短所に焦点をあてており、マーク1型反応炉やその世代だけに固有のものと解釈できない。


暗示――これらすべての問題を解決できるし、するだろう


しかし、これらの失敗は修正可能であるとか、その類いのことをいうのは暗示だった。アメリカ原子力学会は事故直後に「原子力産業はこの事象に学び、将来、わが国の施設をより安全なものにするため、その設計を改訂するだろう」と世界に約束したとき、その方向を定めたのである。


原子力の責任を担う公的機関のほぼすべてが、それに追従した。たとえば、IAEAは定期的に繰り返す一連の調査の指揮をとり、それがやがてIAEA『原子力安全に関する行動計画』にまとめられて発表され、それにつづいて連続的に会合が開かれ、他の専門機関の代表たちがその場で自分たちの分析を共有し、技術勧告を作成した。


諸団体は常に「学ぶべき多くの問題が残っている」と決議し、さらなる研究と将来の会合の開催を勧告した。しかし、ここにもまた、疑問の種がどっさり詰まっている。


第一に、フクシマに固有の設計や世代が例外的に脆弱性の原因であるということを疑うに足る理由がたくさんある。たとえば、前述したように、災害後に確認された――予備電源まわりの不適切な防水など――特有の設計不備の多くは、反応炉設計の全般にわたって広く適用できる。


また、反応炉の設計または世代がなんらかの形で例外であるとしても、その例外主義には決定的な限界がある。現時点で世界で稼働中のマーク1型反応炉は32基あり、その他にも、同じような稼働年数と世代の反応炉が多くあり、特に米国では、現時点で運転されている原子炉のすべてが1979年のスリーマイル・アイランド事故の前に就役している。


第二に、既存施設の大多数に改修を施せば、フクシマの教訓をすべて反映できると信じるだけの理由はほとんどない。たとえば、核施設の耐震性を大幅に改善するためには、大規模な設計の変更が必要になり、構造物全体を解体して、一から造りなおしたほうが現実的かもしれない。


これが技術勧告をめぐる動きが止まっている理由なのかもしれない。したがって、違った、またはもっと現代的な反応炉であれば、より安全であるというのは本当かもしれないが、わが国の反応炉はそうでない。


NRC20123月――急を要する勧告の一部を実施するように電力会社に求める3件の「即時施行」命令を発布し――停電と燃料プールに関連する新基準をいくつか発表した。しかし、求められる改善は比較的小規模なものであり、この例の「即時」は「20161231日までに」を意味していた。


その一方、そのころNRCが付与した新規反応炉4基の認可には、NRCがフクシマから学んだ広範な教訓を活かすための拘束力のある義務条項は含まれていなかった。いずれの例でも、ますます孤軍奮闘を強いられていたNRC委員長、グレゴリー・ヤツコだけが反対票を投じた。2016年期限に反対したのも、彼ひとりだった。


複雑なシステムのびっくりさせつづける能力


最後に、そして最も基本的なことに、いかなる反応炉設計もリスク分析が示すのと同じほど安全であることを疑うだけの先験的な理由がたくさんある。複雑なシステムの観測者たちは、どのように設計しても、基幹技術が必然的にある程度の動作不良を起こしがちである理由に関する有力な論拠の概略を描いた。


そのような論拠で、最も卓越しているのが、ペローの正常事故理論(Normal Accident Theory; NAT)であり、これは、さまざまな事象が起こりうる機会が多いシステムにおいて、非常にありえない(つまり、いかなるリスク計算も予測できない)事象の合流が原因である事故は「正常」であるとする、単純だが、抜群に確率的な洞察を備えている。


この観点において、「故障発見・即決修理」論は、将来が孕んでいる「運命的な偶然の一致」がどれほど多いか、知るすべをもたらさないので、怪しいものになる。IAEAのフクシマに関する予備報告「教訓1」は、「……核施設の設計は、外部事象の滅多に起こらない複雑な組み合わせに対する適切な防護策を含むべきである」というものだった。


NATは、減らしようがない数のこれらの「複雑な組み合わせ」に形式的分析と管理統制の手が永遠に届かないはずである理由を説明する。


大差のない結論を実証する、もうひとつの方法は、技術的知識の基本的な認識論的曖昧さを指摘し、複雑で安全重視が不可欠なシステムには非常に高度なレベルの確実性が求められるので、この曖昧さの重大性が拡大する様相を挙げることである。


この状況において、判断は絶対的に正しいものでなければならず、ますます重大になる。このような計算には、エラーの入りこむ余地がない。99%の確率で反応炉は爆発しないといっても無意味であり、爆発するかしないかは半々であるというのが正しい。


完璧な安全性は決して保証されない


この観点から見て、複雑なシステムは、前もって予測することが不可能な間違った信念が招き寄せる失敗に陥りがちであり、筆者はこれを別のおりに「認識事故」(Epistemic Accidents)と呼んだ。


「故障発見・即決修理」論は、将来が孕んでいる新たな「教訓」がどれほど多いか、知るすべを提示しないので、完璧な安全を保証できないといっておくことが肝要である。


技師たちと規制官たちにとって、核施設が遭遇するかもしれないすべての外部事象を予想していたと確実に知ることが不可能であるのとまったく同じように、彼らにとって、システムそのものが完全に正確であると理解していると知ることは不可能である。


安全余裕、余剰防護、深層防護を増大すれば、疑いなく反応炉の安全性が改善するが、どれほど技術の妙技を注ぎこんでも完璧な安全性を達成できないし、核施設に求められる「理解可能な」レベルの安全性さえ覚束ない。ガンダーセン(2011年)がいうように、「……完璧に安全な反応炉はいつも曲がり角の向こうなのだ」。


核の権威筋は時おりこれを認める。たとえば、IAEAが惨事の知見を2012年勧告にまとめたあと、会合の議長、リチャード・メサーヴは、「核の事業において、『仕事が終わった』ということは決してできません」と要点を語った。


その代わり、彼らは改善を約束する。メサーヴはこうつづけた――「スリーマイル・アイランドとチェルノブイリの事故は、安全システムの全般的な強化をもたらしました。フクシマの事故に同じような効果があることは明白です」。


だが、真の問いは、いつになれば安全性が適切に強化されるかなのである。それがスリーマイル・アイランドとチェルノブイリのあとでなかったなら、フクシマにどんな違いがあるのか?


信頼性神話


本論のねらいは要するに、フクシマの規模の事故は二度と起こらないと断言することは誤解を招くということである。反応炉に求められる信頼性が計算不可能であると信じるだけの確かな理由があり、反応炉のじっさいの信頼性が公的に計算されたものよりずっと低いと信じるだけの確かな理由があるからである。


これらの限界は、核反応炉のじっさいの歴史的事故率で明白に証明されている。最も初歩的な計算でさえ、民生用核の事故は公的な信頼性アセスメントが予測したものより遥かに頻繁に起こっていることを示している。


正確な数値は(たとえば、フクシマをメルトダウン1件と数えるか、3件と数えるかといったふうに)「事故1件」の分類によって左右されるが、ラマナ(2011)は深刻なメルトダウンの歴史的確率を3,000炉年に1回とし、タエビら(2012: 203fn)は1,300炉年から3,600炉年のどこかに1回としている。


どちらにしても、裏にある信頼性はアセスメントの主張より何桁も低い。たとえば、著名なフランスの核施設製造業者、アレヴァは英国の規制当局に提出した申告で、同社の新型「EPR」反応炉における「炉心損傷事象」の可能性を1炉あたり160万年に事象1件とする確率計算を記載した(Ramana 2011)。


2:事故は許容範囲内


フクシマを説明する二番目の基本的な言い草は、事故の影響は許容範囲内である――核事故のコストは高上りに見えるかもしれないが、時間でならせば、代替エネルギーに比べて許容できる――という主張に頼っている広範な核産業を事故が台無しにするのを防いできた。


「事故は許容範囲内」論は常に核事故による健康への影響に関連して考案される。「わたしの知るかぎり、だれひとりとして放射線で死んでおりません」と、サー・デイヴィッド・キングはフクシマに関連する記者会見の場で語り、彼が巧妙に表明した所感は、事故後の世界のどこでも論説に繰り返し反映されることになる。


原子力は考えられるかぎり最も手厳しい試験にかけられ、人びとと地球に対する影響は小さかった」と、モンビオット[ガーディアン紙のコラムニスト]はある独特のコラムで結論づけた。


歴史は、原子力が滅多に殺すことがなく、ほとんど病姫を起こさないことを示した」と、やシントン・ポストは読者に請け合った(Brown 2011)。たとえば、McCulloch (2011)Harvey (2011)も参照のこと。フォーブス誌記事のタイトルが、「フクシマの避難者は、放射線でなく、恐怖の犠牲者」と宣言した(Conca 2012)。


この主張はもっと洗練された形で、他の代替エネルギーとの比較を引き合いに出す。アメリカ肺協会の2004年論文は、石炭火力発電所が毎年24,000人の命を縮めていると主張している。


チェルノブイリは今日にいたるまで最も毒作用の強い核惨事であると広く考えられており、過去と将来において4,000人内外の死の原因になっていると常に考えられている。


(専門家の大多数が否定しても)フクシマの影響でさえも比較が可能なら、核エネルギーが周期的に事故を起こしたとしても、統計によって、その人的損失はほとんど無視できるように見える。


しかしながら、そのような数値には非常に異論が多い。部分的には石炭火力のほうが原発より多いからである(もっと公正な比較は、キロワット/時あたりの死者数を考えることかもしれない)。だが、主な原因としては、核事故による健康への影響の計算が基本的に曖昧だからである。


慢性的な放射線障害は、広範な疾患として発現しうるが、そのどれも――統計的に判別されなければならず――放射線に誘発されたものして明確に分別されず、しかもそのすべてに長い潜伏期間があり、時には発症するまで数十年かかり、あるいは世代を超えることもある。


何人、死んだ? 解釈によりけり…


だから、核事故の死亡率推計は必然的に数々の複雑な前提と判断に頼ることになり、同じデータなのに、根本的に異なった――だが、等しく「科学的」な――解釈の余地が生まれることになる。他のものに比べて説得力のある主張もあるが、この領域では、「真実」はわたしたちがそうあるべきだと常に思うようには「おのずから輝く」というわけではない。


たとえば、フクシマにおける推計の根拠になる、チェルノブイリの死亡率に関するさまざまな研究を取り上げてみよう。これらの研究の根拠とされるモデルそのものが、ヒロシマとナガサキの被爆者のデータを根拠としており、これはその精度と妥当性が幅広く批判されてきたのであり、しかも明確な正解のない一連の選択をおこなうモデル制作者を要する代物なのである。


モデル制作者は、放射線が人体に作用する様相にまつわって相競合する説、たとえば、事故が放出した放射性物質の量に関して大幅に異なる判断、その他もろもろのあいだで選択しなければならない。そのような選択が緊密に相互連関しており、相互依存関係にあるのだ。


たとえば、事故で放出されたアイソトープの構成と量に関する推定は、その分布に関するモデルを左右し、それが放射線の人体に対する影響の様相に関する学説とごっちゃになって、リスクにさらされた特定の住民集団に関する結論を左右する。


これはまた、死亡率の大幅な急増を放射線の害と解釈すべきなのか、それとも放射線関連の死と見える事例の多くがじっさいは他のなにかの兆候であると解釈すべきなのかといった判断を左右することになる。これが果てしなくつづき、理論と正当化の変転極まりないタペストリーを織り成し、微妙な判断がこのシステム全体に波紋を広げる。


純然たる結果として、アセスメントの根拠になる前提にかかわる――通常、研究のごく早い段階でなされ、たいがいの傍観者にとって、ほとんど不可視の――秘かな判断が研究の知見に劇的な影響を与えることになる。この結果は、チェルノブイリの死亡者に関して大幅に食い違った断定に見て取ることができる。


上記に挙げた「正統派」の――4,000人を超えないとする――死亡者数は、IAEA主導の2005年「チェルノブイリ・フォーラム」報告から引用したものである。あるいはむしろ、要録版に添えられていた、IAEAの大幅に縮小・改変されたプレスリリースからの引用である。報告本体の健康の部はずっと大きな数値をほのめかしている。


それなのに、「死亡者4,000人」の数値は、同様な調査の結果と大きく違っているにもかかわらず、たいがいの国際的な核の権威筋に是認され、引用されている。


たとえば、翌年に公開された2本の報告はずっと大きな数値を挙げている。ひとつは30,000から60,000の癌死亡を見積もり(Fairlie & Sumner 2006)、もうひとつは200,000かそれ以上としている(Greenpeace 2006: 10)。


その一方、ニューヨーク科学アカデミーが2009年、ヤブロコフによる極めて実のあるロシア報告を出版しており、その本では、死者数の幅をさらに大きく広げ、チェルノブイリに起因する癌による世界の早すぎる死亡例の数を、2004年までで985,000内外と結論づけている。


これらふたつの数値――4,000985,000――のあいだに、他の専門家によるチェルノブイリの死者数に関するさまざまな推計が連なっており、その多くが正確で権威があるように見える。グリーンピース報告はさまざまな推計の一部を一覧表にし、それらをさまざまに異なる方法論に関連づけている。


科学なのか? それともプロパガンダなのか?


この数値論争のそれぞれ異なった陣営は、敵側が意図的に欺こうとしていると常に思っている。さまざま大勢の批評家たちが、たいがいの公式見解は業界の援軍が執筆したものであり、業界が人間にもたらした放射性降下物の証拠を主張と反論の乱痴気騒ぎの賭博場に投げこんで、核の破局的惨事を「洗浄」しようとしていると主張している。


たとえば、カリフォルニア大学バークレー校の元医学物理学教授、ジョン・ゴフマンが、エネルギー省は放射線被害の保守的なモデルを推奨することによって、「ヨーゼフ・ゲッベルスのプロパガンダ戦争を遂行していた」と書いたとき、彼の告発は、その内容よりも、その実直さが際立っていた。


それに、その証拠は確かにある。過去において、米国政府が国民の不安を鎮めるために、放射線の害に関する科学に暗い影を意図的に落としていたことに疑いを差し挟む余地はない。たとえば、1995年の米国・人体放射線実験に関する諮問会議は、冷戦期の放射線研究が政治目的のために大幅に削除されていたと結論づけた。


原子力委員会(NRC)の元委員が1990年代初頭に次のように証言している――「核エネルギーをめぐる戦いにおいて、規制当局者の職務が核施設の所有者や運営者と一体化していたことの結果として、反核陣営に不利になるように情報を管制しようとする傾向がありました」。だが、双方それぞれが執着する現実について選り好みしているといったほうが役に立つだろう。


この領域において、完全に客観的な事実はなく、これほど判断が多いので、ちっぽけな、ほとんど人目につかないような歪曲であっても、一見したところ客観的な危害計算の形を定めているのかもしれないと容易に想像できる。


実のところ、相異なる核の危害計算の分かれ目となる判断の多くは本来から政治的なものであり、核の被害に関して完璧に中立的な説明というようなものはありえないという結果になる。


たとえば、研究者らは「死産」数に入れるか「死亡」数に入れるか、決めなければならない。アセスメントがもっぱら死亡のみを強調するのか、あるいは放射線に関連するすべての傷害。疾患、異常、機能障害に対象を広げるのか、決めなければならない。「縮められた」命を「失われた」命に含めるのか、決めなければならない。


このような設問に正解はない。データを増やしても、解決しない。研究者らはただ選択しなければならない。その純然たる結果は、いかなる核惨事の害も、歪みのあるレンズを通して、遠目で垣間見るしかないということ。


フクシマの健康に対する影響に関する最大限に厳密な計算でさえ、とても多くの曖昧さと判断が埋めこまれているので、いかなる研究も決定的でありえない。残るものは、印象だけであり、批判的な傍観者にとっては、目が回るような可能性の感じだけである。


コスト推計――何十兆円になるのか?


確実に言えるのは、フクシマの死亡率は低いと確約することが、担保において誤解をもたらすということだけである。放射線学的な死亡率をめぐる事実と数値の十字砲火の激しさを考えると、健康のレンズを通してフクシマを眺めるだけでは、役に立たない。


じっさい、災害の影響を見るためには、他の――はるかに曖昧さの程度が低い――レンズもあることを考えると、死亡率を強調すること、それ自体がフクシマを極小化していると考えることもできる。


フクシマの健康に対する影響に関して、たっぷり争われているので、事故が許容範囲内のものであるとめるような形に解釈することもできるが、他の条件では、許容範囲内だと言いくるめるためにいじくるのが、もっと難しい仕事になる。


たとえば、災害の経済的影響を取り上げてみよう。健康と安全の面でフクシマの影響にもっぱら焦点をあてたことにより、その経済的な影響がほとんど隠されてしまっているが、それでも後者は、議論の余地があっても、より重要であり、確かに曖昧さの程度がましである。


核の事故は多様な面でコストがかかる。反応炉を密封する必要のための直接費、環境放射性降下物を研究、監視、緩和するコスト、危険にさらされた人びとの再定住、倍賞、処遇にかかる費用などなどである。


チェルノブイリから25年以上経過したいまでも、事故は西ヨーロッパを悩ませ、数か国の政府の科学者たちがある種の肉類を検査しつづけ、その一部が食品流通経路に入らないようにしている。


さらに、農地や産業施設といった資産の喪失、発電所や周辺施設の電力の喪失、事故による観光業界の打撃など、外部で発生する数々の間接コストがある。核の事故による正確な経済的影響を見積もるのは、死亡率とほとんど同じほど困難であり、計算結果は同じ基本的な理由によりさまざまに異なってくる。


フクシマ周辺の避難区域――大部分が数世代にわたり居住不能である約966平方キロの地域――は、日本の国土の3%を占め、人口が密集しながら、そもそも土地の20%だけが居住可能である山の多い地域だった。


しかし、コスト見積もりは同じ程度までにはバラバラに異ならず、フクシマの死亡率とは対照的に、財務コストが巨額になるという点では、ほとんど争いがない。日本政府はすでに201311月、フクシマの浄化経費だけで8兆円(ざっと800億ドル、または470億ユーロ)――数十年かかり、数百億ドルかかると予想される原発解体費を含まない額――を割り当てていた。


独立系の専門家たちは浄化費用が5兆ドル辺りになると見積もっている(Gunderson & Caldicott 2012)。しかも、この見積もりには、食品・農業部門の災害損失額など、概略を前述した間接費を含んでおらず、日本の農林水産省はこれを238410億円(ざっと240億ドル)と見積もっている。


これらの競合する見積もりのうち、高上りの金額のほうが妥当であるように思える。評判悪くも控え目なチェルノブイリ・フォーラム報告も、関連コストが事故から丁度20年で「数兆ドル」に達したと報告しており、フクシマの三重メルトダウンがそれより安上がりになるとはとても思えない。


たとえ、チェルノブイリがフクシマより危害が大きかったという想定(ますます薄っぺらになっている共通認識)を認めるとしても、その同じ報告が、ベラルーシ単独の30年間のコストが23500億ドルになると予想しているのであり、ベラルーシの失われた機会の損失、倍賞支払い、浄化経費が日本のそれに匹敵するとはとても思えないのも、ほんとうのことなのだ。


たとえば、日本のずっと高い生活費、議論の余地のない反応炉6基の喪失と少なくとも原発遺跡の閉鎖決定、その他多くの要因を考えてみるがよい。チェルノブイリの反応炉はベラルーシに属してさえもいなかった――それは、現在のウクライナにある。



核災害の責任詐欺


これらの数値を視野に置き、米国の核事業会社が一産業――間口は広いが、たった1200億ドルの事故賠償保険プール――の開設を求められ、それ以上の損失に対して、プライス=アンダーソン法で守られ、米国議会がこの法律であらゆる核災害のコストを社会化したことを考えてみるとよい。


反応炉事業は――権威ある、第一級のリスク・アセスメントをあげて、安全性を謳っているにもかかわらず――ほとんど唯一、民間保険の契約ができないので、米国の核産業はそのような常軌を逸した政府の保護を必要としており、どこの国でも事情は同じである。


業界独特の限定責任頼りは、どのように原子力を経済的に正当化しても、フクシマのような大事故の不可避性を認めることができず、しかも存続し、競争力を残しているという事実を反映している。


核災害の経済学に関する2012年報告の著者、マーク・クーパーは次のように指摘する――


核反応炉の所有者と運営者がフクシマ型の核事故の全面責任に向き合ったり、助成金の軛を逃れて、本物の競争市場で代替エネルギー事業者と角を突き合わせたりしなければならないなら、過去において、だれも核反応炉を建造しなかっただろうし、今日において、だれも建造しないし、反応炉の所有者は、できるだけ急いで核事業から撤退することだろう


* * *


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ジョン・ダワーJohn Downerは、ブリストル大学(英国)社会学・政治学・国際研究スクール、世界不安センターに勤務。.


本稿は、ロンドン経済学・政治学スクールのリスク解析・規制センター刊'In the shadow of Tomioka - on the institutional invisibility of nuclear disaster'(「富岡の影にて~核惨事の不可視性について」の抄録。


この抄録版は、編集段階で重要な脚注資料を本文に組み込み、ほとんどの参照文献は割愛している。学者、科学者、研究者などの諸氏には、オリジナル版を参照してくださるようにお願いする。


アルジャジーラ米国「低所得住民を放射能汚染地域に追いやるサンフランシスコの高級住宅街志向」

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低所得住民を放射能汚染地域に追いやる
サンフランシスコの高級住宅街志向


放射能汚染された2か所の海軍施設跡地、トレジャー・アイランドとハンターズ・ポイントがサンフランシスコ市の低価格住宅供給計画の要


201564

トシオ・メロネク Toshio Meronek


H通りと第六街路の丘から西を眺めたサンフランシスコ市トレジャー・アイランドの景観。住民の3分の1以上が元ホームレス。Carlos Chavarría


【サンフランシスコ】ハンターズ・ポイント造船所とそのトレジャー・アイランドの付属施設は、かつて太平洋の核実験場から帰還する船舶の洗浄に使われていた。宅地需要と投機熱が高まり、街の高級化と再配置が爆発的に進行している都会で、その土地はまもなく、ぜひとも必要な低価格住宅の用地に生まれ変わろうとしている。新しい地域社会に求められているものは、魅力的に設計されて、絵になるショッピング地区や公園、エコにかなった耐乾性の灌木、呼び物になるサンフランシスコ湾の眺望である。


イラスト類は、もちろん、いまだに除染が進行中の区画のあちこちに掲示されている赤と黒のマーク、放射能を警告する標識を省いている。


かつての軍用地は、貧困層に住宅を供給する市当局の戦略の要になっている。トレジャー・アイランドは住民の3分の1が元ホームレスである。


レナー・コーポレーションは、2003年にトレジャー・アイランド、2014年にハンターズ・ポイントの再開発の入札を認可するように市役所に説得しており、土地買収の責任者、コフィ・ボナーは、「市役所と民間部門の非常に有能な方がたが低価格住宅団地の開発を促進する方策を探っておられます」といった。この会社は米国有数の大手住宅建設業者であり、サンフランシスコ市倫理委員会のデータによれば、地元の政治家に対するロビー活動に関連する支出額のトップ10社に入っている。


レナー社が市との交渉にあたって提示した特典のひとつが、平常の住宅市場相場より割高な金利だった。だが低価格住宅の唱導者たちは、残存放射能が懸念される2か所の海軍拠点跡地に貧困層を送りこむことに気乗り薄であり、開発業者に対する過去の訴訟を考えるとなおさらのことである。


レナー社は軍事基地の跡地を画一的な住宅分譲地に再開発することで財を成しているが、2008年にフロリダで売却した新築住宅のオーナーたちが第二次世界大戦期の爆弾やロケットを100発以上も見つけており、その多くがいつ爆発してもおかしくない状態だった。


海軍は陸軍によるフロリダの仕事よりは上出来の浄化作業をすると約束し、サンフランシスコ市は街から押し出されかねない人びとの手が届くように、住宅建設助成金を提供している。


ボナーは低価格住宅の対価の一部を支給する市の決定を賞賛し、「この特別な状況では、あらゆる方策を検討すべきです」といった。


ボナーはかつて前サンフランシスコ市長のウィリー・ブラウンに仕えており、この人はサンフランシスコ湾岸地帯の高くつく住宅コストにまつわる有名な皮肉(「サンフランシスコで年に50,000ドル稼げないようであれば、ここに住むべきではない」)を言い放って、リベラル寄りの有権者たちと一悶着おこしたが、ボナーがメディアに話すさい、住宅取得危機に要領よく言及しており、かつての上司よりも政治的に抜け目がない印象をあたえる。


ボナーはガーナ共和国クマシの裕福な家庭で生まれ、青年期の大半を英国ですごしている。彼は現在、湾から車で東に30分、全米で高所得トップ20に数えられる町、おしゃれなウォルナット・クリークに住んでいる。


コネの利くボナーは軍事基地再開発の指揮をとる前、現サンフランシスコ市長、エド・リーとも行動を共にしていた。だが、彼の名が最も知られるようになったのは、おそらく近隣のカリフォルニア州エメリーヴィル再開発事業の責任者としての働きによってであり、彼はそのさい、文化的・霊的に重要な埋葬地の保全を願っていた先住アメリカ人活動家たちを相手に戦い、勝っていた。オンロニ・シェルマウンドはその後、すっかり舗装され、H&M、イケア、ユニクロなど、チェーン店が並ぶ屋外ショッピング・モールになっている。


トレジャー・アイランドの北西部にある住宅団地の内部。サンフランシスコ市は、住宅金利を平常の市場相場より割高とする内容の交渉にもとづいて、レナー・アーバンの入札を認可した。Carlos Chavarría


ハンターズ・ポイントとトレジャー・アイランドの住民は、レナー社、ブラウン前市長、リー現市長など、同社に好意的な地方当局者たちのこととなれば、手加減しない。ネーション・オブ・イスラムの地域聖職者、クリストファー・ムハマドは同社相手の訴訟のさい、レナー社を「信用ならないゴロツキ会社」呼ばわりした。アスベスト関連の訴訟が、ハンターズ・ポイントにおけるレナー社の開発事業を、地域の子どもたちが高率で発症した喘息の原因にあげ、やがて市は特別対策委員会を設置することになった。


ムハマドはかつて2007年にサンフランシスコ・ベイ・ガーディアン紙に、「われわれの争点は、レナー社が意図的に(アスベスト)調査を打ち切ったことだ。問題になるのは、レナー社が自社の最終損益を考え、合意をすべて裏切った点にある。彼らは予防原則をどこ吹く風と捨ててしまった。そして、市は素知らぬ顔をしていた」と語った(Question of intent)。


古くからのハンターズ・ポイント住民であるマリー・ハリソンは、環境の公正さを追求するグループ、グリーンアクション(Greenaction)の活動家である。レナー社は「恥知らずとしか言えません」と、彼女はいった。


「この連中は、期待されて当然のこと、全力をつくして地域社会を守る仕事のこととなると、わたしの意見では、やっていることがほど遠くて、まるで地域住民が計算の埒外になっているかのようです」と、ハリソンはいう。


「連中は免責されたままの振る舞いを許されてきました」と、彼女は付け加えた。


ボナーに造船所の健康問題について質問してみると、受け答えが慎重になった。


「あなたにしろ、わたしにしろ、科学者でもなく、医者でもありませんが、ある種の病気について、ハンターズ・ポイントにおける発症率が高いことは、わたしも知っていますし、しっかりした記録もあります。いくつか理由があるとわたしは信じていますし、理由はこれだとおっしゃる方がたもおられます。手短に答えれば、そうですね、わたしは確かに知っています。わたしにいえるのは、基地を浄化し、最終的に健康な住宅と健全な活動を導入することが地域社会全体の最善の利益にかなうということだけです」と、彼はいう。


レナー社を導く利害はもちろん、健康住宅よりも収益であり、造船所とトレジャー・アイランの事業が完成した暁には、その見返りは850億ドルの巨額にのぼる再開発契約になる。会社は利潤期待値の公表を控えた。


しかし、レナー社がロビー活動で支出した(同社がみずから報告した推計値によれば)年間150,000ドル以上の経費の元はとれているようである。造船所の事業について、市が雇ったコンサルタントが競争入札による評価を諮問し、別の企業を推薦したが、レナー社は単独開発業者に選ばれた。交渉による合意の結果、レナー社は造船所のトレジャー・アイランドの土地の対価を支払わないが、基盤整備コストを市と分割して負担し、利潤を納税者と――たぶん――分け合うことになる。最終的な合意として、レナー社が投資額の25パーセントの利益をあげて初めて市は分前を受け取ることになった。


海軍に浄化費用負担の責任があり、この事業は何十年も前から実施されている。ハリソンは、それほど前の話ではなく、ハンターズ・ポイント第3街路のマンホールから汚染されえいる可能性がある下水が溢れだしたことがあると話した。最近、海軍が使っていた廃棄物除去法のため、造船所の近くで汚染されている可能性のある汚泥水を湾内に100ヤード(90メートル)先まで押し出した。


ハリソンは、「わたしは海洋学者ではありませんし、技術者でもありませんが、わたしでさえ、あの100ヤード標識のあたりに海水が流れており、そこに留まっていることができず、『ああ、わたしは汚染されているので、海水に混ざるわけにはいかない』というに違いないということはできます。わたしたちの海域には、すでに水銀とPCB類の問題があるのです」と話した。国の水質規制委員会は後者の問題に何年も前から気づいている。たとえば、潜在的な発癌物質である水銀とポリ塩化ビフェニル類が湾内の魚からごく普通に検出されているので、委員会は海産物の摂食に対する警告を発令している。


ハリソンの声は、最近の近隣住民の死を並びあげるさい、悲しげに聞こえる。


「これまで2年間にわたしの街区だけで、8人の方がたがさまざまなタイプの癌で亡くなりました。わたしのところから造船所のほうに1街区先に行くと4世帯住宅があり、そこの同じ世帯でない3人の成人女性が乳癌にかかっています。その後ろの住宅にも乳癌の方がいます。4世帯住宅から2軒先のケサダ(通り)に面した2世帯住宅の女性がおふたりとも乳癌です。ですが、なんらかの理由で、癌が集団化していると見られていません」


昨年、トレジャー・アイランドで大量の放射能汚染物質を見つけた契約労働者が、その後に解雇され、内部告発者として公職に報告した。下請けの放射線専門家、ロバート・マックリーンは当時、調査報告センターに「わたしたちは、校庭と以前に校庭だった区域で放射能汚染物質を検出しました」と語った。後に海軍の契約業者が、トレジャー・アイランドのいまだに放射能で汚染されている地域に関して虚偽報告を提出したことを認めた*


サンフランシスコ造船所、レナー・コーポレーションの子会社、レナー・アーバンの新規開発地の空撮画像。Lennar Urban


2014年に公表されたカリフォルニア癌予防センター報告は、トレジャー・アイランドにおける癌リスク上昇に関する結論を提示しないでおき、島の人口規模――2010年国勢調査で2500人――が一定せず、「いかなる類の意味のある特定地域統計解析も実行不可能である」と記していた。


ハリソンは、「わたしたちはキングズ・イングリッシュを話さないかもしれませんが、自分たちに起こっていることは知っています。毎日、それを見て、それとともに生きているのですから、それについて、お知りになりたいなら、ここに住んでいない他の人たちに聞いてもわかりませんから、わたしたちに聞いてください」といった。


ボブ・ベックは。市の地域開発を監督する部局、トレジャー・アイランド開発局の局長である。彼は島内に住んでいないし、7人の部下も住んでいない。だが、彼は技術者の目で見て、トレジャー・アイランドは「工学の観点から途方もなくすばらしい位置にあります――仕事をするうえで非常に興味深い事業です」という。


ベックは、「全体として、市内の低価格住宅の需要は全般的にとても大きいですが、ここの場合、なお強調される側面があり、元ホームレスの方がたという追加的な注目点があるのです」と語る。


ベックは、これから20年に計画されている8,000戸に達する住宅建設の着手に向けて腕をならしている。(目下、島内の既存住宅数は1,000戸未満)


「わたしたちは建設の着手に向けて、また(住宅危機の)解決のお役に立てることにワクワクしています」と、彼はいった。


トレジャー・アイランドの家屋の土地が化学汚染されているため、移住を余儀なくされる24世帯に宛てて発送された201311月付け書簡に、ベックは署名していた。移住問題があったのに、また海軍が放射能不安を抑えようとしていたのを暴露した調査報道*があったにもかかわらず、ベックは、浄化作業に関して全体として「海軍はいい仕事をしている」ことと信じていると話した。


しかし、ハリソンは、気候変動のために海水面が上昇すれば、なにが起こるかわからないと心配している。湾内の汚染土砂が、人びとの住み、働き、通学している場の近くに移動するかもしれないと彼女は主張した。


「市の(現在の)気候計画は穴だらけです。わたしたちは技師ではありませんし、科学者でもありませんが、わたしたちが計画にこれほど多くの穴を指摘することができるなら、問題があります」と、彼女はいった。


わたしたちが浄化について問い合わせたとき、毒性物質規制部門(DTSC)は環境保護局(EPA)と違っていた。EPAは当局の調査と検証は適切であるといった。


EPA9地域の広報官はEメールの問い合わせに、「海軍独自の内部・日常・品質管理システムは、設計通りに機能しております。海軍が懸念事項を見つけると、報告し、修正しております」と応えた。


浄化は完了からほど遠い。EPA報告は、現在の健康被害が呼吸、水の摂取、皮膚接触の結果であるかもしれないと述べていた。同局は、ハンターズ・ポイントが2021年までにEPAスーパーファンド(放置有害廃棄物除去基金)対象地登録から外されると予測している。海軍自体による見通しによれば、海軍は2022年にトレジャー・アイランド浄化事業を最終的に完了することになっている。それまで海軍は、汚染土壌、荒天時排水路、その他の構造物を掘り起こし、構内から搬出しつづける。


「海軍はまた、地下水を飲用水や浴用水として使うことを禁止することによって、また鉄か乳酸塩を注入して汚染物質の化学分解を促進することによって、公衆を保護しています」と、女性広報官は述べた。


DTSC
によれば、特に汚染されている土砂を、民間請負業者、USエコロジー&ネネルギー・ソルージョン社の数百マイル離れたアイダホ州とユタ州の所有地に搬出する費用のかさむ仕事もある。DTSC広報官、サンフォード・ナックスによれば、これは非常に危険な放射性土砂であり、カリフォルニア州に受け入れ処分場はない。


トレジャー・アイランドに移り住む元ホームレスにとって、頭上の屋根の交換条件に、喘息、またはそれより悪いものを受け入れる値打ちがあるのか否か、難しい問題である。


しかし、健康不安があるにしても、買い手が最初の売り出し住宅を単価400,000ドルから700,000ドルの相場価格で購入することを思いとどまらせなかった。住民たちは4月に入居しはじめた。


その一方、レナー社は最近、湾岸一帯に手を広げ、閉鎖されたばかりのアラメダ海軍航空基地とコンコード海軍兵器庫の基地再開発計画を固めた。


ハンターズ・ポイントと造船所の事業に関連する不幸と責任転嫁について、これらの基地の跡地に住む人びとが裕福であれば、事情は違っているのだろうかとハリソンは自問しないではいられない。彼女は、1989年の地震で被災した、裕福なマリーナ地区に立ち並ぶヴィクトリア朝様式の住宅を指し示した。その地域の多くで、地震の印はほんの1年以内に消えていた。



「あれが(ハンターズ・ポイントの)エヴァンス街路で起こっていたとすれば、それほど速く再建されていたと思いますか? わたしたちが市から公正な処遇を得ていると言いたいですが、ウソになってしまいます」と彼女はいった。

英紙インディペンデント「ISISが汚い爆弾を製造するに足る放射性物質を奪取」

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ISISの汚い爆弾~聖戦士集団が放射性物質を奪取


アダム・ウィズナルADAM WITHNALL 

2015610


ISIS武装集団が政府施設から放射性物質を奪い、大型で破滅的な「汚い」爆弾の製造に足りる量を確保したとオーストラリアからの情報が伝えている。


ISISはプロパガンダ雑誌“Dabiq”の最新号で大量破壊兵器を開発する野望を鮮明にしており、また以前にインドの国防当局者らが武装集団がパキスタンから核兵器を入手する可能性について警告していた。


オーストラリアのジュリー・ビショップ外相によれば、通常の場合、政府機関だけが入手できるはずだが、ISISが研究所や病院からに奪った物質について、NATOが深い懸念を表明した。


ISIAが保有する放射性・生物兵器備蓄の脅威は深刻であり、化学兵器使用の終結に向けて活動する40か国連合のオーストラリア・グループは先週にパースで開催された同連合のサミットでこのテーマに関する会合を主催した。


「これはまことに危惧すべきことです」と、ビショップ氏はオーストラリアン紙に語った。


オーストラリアのジュリー・ビショップ外務大臣

ビショップ氏は、ISISがシリアとイラクに領域を拡大したとき、「武装勢力が地方銀行の現金を根こそぎ奪っただけでは済みませんでした」と語った。


ビショップ氏は先週のオーストラリア・グループの会合で、ISISが塩素などの毒ガスで武装している恐れについて発言していた。


ビショップ氏はまた、オーストラリアン紙の取材に対して、彼女の懸念している情報は外務省だけでなくオーストラリア国防省からも寄せられていると明言した。

グリーンピースが読み解くIAEAフクシマ報告【はじめに】

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*** 目次 ***

はじめに




3.安全リスク分析の欠陥(準備中)

******

投稿日 - 2015-05-28 19:18


グリーンピースは、IAEA(国際原子力機関)が作成した未公表の福島第一原発事故レポート(以下、レポート)要約を入手し、本日ウェブサイトにて公開した。

(以下がその原文、5つに分割して掲載)


*** 以下はグリーンピースによるIAEAフクシマ報告に対する批判的分析である ***  



2015/05/28


福島第一原子力発電所事故に関するIAEA報告概要:

予備的な分析


ジャン・ヴァン・プタJan Vande Putte

ケンドラ・ウルリックKendra Ulrich

ショーン・バーニーShaun Burnie


「日本は事故を受けて、規制体制を国際標準に適合するように刷新いたしました。日本は規制機関に明確な責任と大きな権限を付与したのであります…わたしは、福島第一原子力発電所事故の遺産が世界の原子力安全性に関して明敏な関心の核になると確信しております。わたしは、わたしが訪問したすべての原子力発電所で安全対策と手続きの改善を目撃しております」

――天野之弥、IAEA事務局長

『福島第一原子力発電所事故に関する報告』2015年版


事務局長による

福島第一原子力発電所事故に関するIAEA報告概要

グリーンピースによる

要録


「事故の原因と結果、ならびに教訓に対する、事実に準拠し、偏りのない、権威ある評価」――IAEA事務局長


グリーンピースはIAEA福島第一原子力発電所事故報告を査読した結果、この報告が事務局長の大望の成就に成功していないという基本的な結論を得た。この報告は、不確実だったり未知のままだったりする内容を事実として提示し、決定的な証拠を無視しており、偏りがないとはまったく考えられない。


放射能と健康――主筆、ジャン・ヴァン・プタ


§   IAEAは、「福島第一原子力発電所事故の原因関係の定量化と特性評価が困難であると判明した」と確認している。

§   IAEAは、福島被災民の放射線量推計に高度な不確実さがともなうと確認している。不確実性の基本的な理由のひとつは、事故の初期段階において、放射線監視システムが適切に機能していなかったことである。

§   IAEA報告は、人の健康に対する識別しうる放射線関連の影響はないと述べており、住民に対する推定線量値が不明であっても、推計集団線量値が重要なので、この点で欠陥がある。数千人規模の人びとの健康に対する影響は、放射線防護が放射線被曝量を数値化し、規制限度を設定する基礎になる線型・閾値なし(LNT)モデルにもとづいて予測すべきである。

§   IAEAは「当事者の関与」の重要性を認めているものの、2014年に避難指示が解除された田村市(都路地区)や川内村、近く解除される飯舘村におけるように、日本政府の意図的な方針の結果、住民が汚染地に帰還することを首尾よく強いられている福島県の現実を無視している。


環境に対する影響――主筆、ケンドラ・ウルリック


§   IAEAの福島報告は福島第一原子力発電所核惨事による陸地の放射能汚染の規模、範囲、複雑さにまったく言及しておらず、証拠もなしに人外生物相に対する影響を無視している。

§   IAEAは、反応炉から北西方向の放射性セシウムの堆積レベルが極めて高く、地域によって1,000,000 Bq/m2から10,000,000 Bq/m2の堆積量が記録されているという1IAEAがいう福島県全域のセシウム137の平均蓄積濃度は100,000 Bq/m2である2。これはIAEA自体が汚染地の判定に用いる基準である40,000 Bq/m2を大幅に超過しており、驚くべき数値である。

1Fukushima Daiichi Accident, Summary Report by the Director General, Board of Governors; May 14 2015, IAEA 2015, pg. 131

2IAEA Fukushima Report, pg. 131


§   IAEA福島報告による環境に対する放射線の影響の皮相的な否定とは対照的に、放射線の影響を実地に調査している科学者たちは放射線被曝による動物の生態に対する測定可能な影響があると結論している。


安全性リスク分析の欠陥――主筆、ショーン・バーニー


§   IAEAは福島第一原子力発電所事故の原子力安全責任を正確に反映する基本的分野で欠陥があり、いま原子力規制庁が管轄する日本の原子力規制が世界最高水準の標準に迫っていることを示す証拠を提示していない。

§   地震が福島第一原子力発電所の重要危機と反応炉内部の配管に影響を与えた証拠があり、その事故との関連がまだ検証されていないにもかかわらず、IAEA福島報告は未知である部分と不確実な部分を認識していない。IAEAは信じられないことに、「日本の原子力発電所は耐震設計と建設において慎重な手法を採用しており、その結果、施設が適切な安全余裕度を具備することになった」と記述している。

§   IAEAは正当にも東京電力(TEPCO)と2011年当時の福島第一原子力発電所を監督していた原子力安全・保安院(NISA)の両者に対して批判的でありながら、日本における新しい耐震規制要件の目下の欠陥とその誤った適用になんら言及していない。

§   原子力規制庁(NRA)は脆弱な核規制を警告されているにもかかわらず、IAEAの勧告を含め、国際慣行に従っていない。原子力発電所、とりわけ川内原発の核反応炉を再稼働する計画に対するNRAの審査は、フクシマ後の規制に対する違反を是認しており、その結果、原発の安全性に不可欠である耐震基準の不備を承認している。


詳細情報の問い合わせ先:


ジャン・ヴァン・プタ――グリーンピース・ベルギー

Jan Vande Putte – Greenpeace Belgium - jan.vande.putte@greenpeace.org

ケンドラ・ウルリック――グリーンピース日本

Kendra Ulrich – Greenpeace Japan - kendra.ulrich@greenpeace.org

ショーン・バーニー――グリーンピース・ドイツ

Shaun Burnie – Greenpeace Germany - sburnie@greenpeace.org


はじめに


グリーンピースは、国際原子力機関(IAEA)が編纂し、68日から12日まで開催されるIAEA理事会会合で議論されることになっている福島第一原子力発電所事故に関する報告の概要を査読する機会を設けた。IAEA報告の完全版は、20159月にウィーンで開催される年次会合の加盟国総会に提出されることになっている。


238ページから成る報告書の一部に対する、この予備的な分析は次の3点に焦点を絞っている――


1.放射線と健康

2.環境への影響

3.安全リスク分析の欠陥


グリーンピースはこれからの当面、IAEAフクシマ報告に対する追加的な分析を実施していくつもりである。



*** 本稿の構成 ****


はじめに




3.安全リスク分析の欠陥(準備中)

グリーンピースが読み解くIAEAフクシマ報告【1.放射線と健康】

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福島第一原子力発電所事故に関するIAEA報告概要:

予備的な分析


*** 目次 ***

1.放射線と健康


3.安全リスク分析の欠陥(準備中)


******

1.放射線と健康


福島住民に対する実効線量の実情に関する不明確さ


IAEAフクシマ報告は、特に事故後の初期の監視システムが適切に機能していなかったので、フクシマ被災民が受けた放射線量の推計には高レベルの不確実性がともなっていると認めている。ヨウ素131、キセノン133など、数種の同位体は半減期が短く、そのために当初の被曝量を正確に再現することは不可能である。IAEAフクシマ報告は次のように記している――


「事故直後のヨウ素の摂取に関して、この時期の信頼できる個人放射線監視データが不足しているために不確実性が付きまとっている」


IAEAフクシマ報告は、さらに次のように記している――


「福島第一原子力発電所における事故の当初条件の数値化と特性評価が困難であると判明した。環境の迅速な監視によって、放射性核種のレベルを確定し、人びとを防護するための当初の基礎を確立することができる」


IAEAフクシマ報告はこのようにして、同報告そのものが大きく依拠しており、また「放出中の期間における放射性核種の放出比率および天候条件に関する不完全な知見」など、不確実性をもたらす要因を列挙している「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR2013年報告3を追認している。

3Sources, Effects And Risks Of Ionizing Radiation, UNSCEAR 2013, Report Volume I Report To The General Assembly Scientific Annex A: Levels and effects of radiation exposure due to the nuclear accident after the 2011 great east-Japan earthquake and tsunami, United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation,


UNSCEAR2013年報告では、80歳になるまでの日本国民が受ける集団線量が48,000人シーベルトと推計されている。


8.日本国民(2010年における概算人口12800万人)の甲状腺に対する集団実効線量と集団吸収線量の推計値

線量範疇

被曝の期間

最初の1年以上

10年以上

80歳まで

集団実効線量(1000人シーベルト)

18

36

48

集団吸収線量(1000人シーベルト)

82

100

112

UNSCEAR, 2013


人シーベルトあたりのリスク因子を10%とすると4、日本国民の致死的な癌は4,800症例になる。これには、非致死性の癌と非癌疾病は含まれていない。

4LNT(線型閾値なし)モデルにもとづき、DDREF(線量・線量率効果係数)を1とする。


IAEAは、放射線量も知らないまま、「識別できる健康への影響はない」と結論する。


IAEAフクシマ報告はこういう――「しかしながら、公衆の受けた線量が低レベルと報告されていることに鑑み、本報告の結論は国連総会に提出されたUNSCEAR報告の結論に同意するものになる。UNSCEARは、被曝した公衆とその子孫に放射線関連の健康に対する影響を示す症例の識別しうる増加はないという知見を得た」。


このような記述は問題であり、その理由は数多くある。国民の線量推計値が不明であるだけでなく、集団線量推計値もまた重要であり、数千もの人びとに対する影響は線型閾値なし(LNT)モデルにもとづいて予測するべきである。放射線防護において、LNTは放射線被曝量を数値化し、規制限度を設定するための基礎である5。また、IAEAフクシマ報告がいう、識別できない、または認識できない健康作用は、健康作用の不在と同義ではない。

5Low-dose Extrapolation of Radiation-related Cancer Risk ICRP Publication 99 Ann. ICRP 35 (4), 2005, http://www.icrp.org/publication.asp?id=ICRP+Publication+99


個人放射線監視


IAEAフクシマ報告はこう述べる――「初期の放射線量評価は環境モニタリングと線量推計モデルを用いており、その結果、いくぶんの過大評価をともなった。本報告の推計には、地方自治体が提供した個人モニタリング・データも含まれており、じっさいの個人線量に関する堅固な情報を提示している」。これは、日本で「ガラス・バッジ」と呼ばれ、福島県の住民に配布された熱ルミネセント線量計(TLD)の使用を指している。


個人線量計、それ自体は放射線防護における重要な機器である。しかし、放射線防護委員会(ICRP)勧告111に述べられているように、それは環境モニタリングで補完されるべきものである6。たとえば、個人線量計を用いる場合、一部の人たちが屋外で線量計を常時携帯していないために、リスクを過小評価することになるので、両方を組み合わせるべきである。

6Application of the Commission's Recommendations to the Protection of People Living in Long-term Contaminated Areas after a Nuclear Accident or a Radiation Emergency ICRP Publication 111 Ann. ICRP 39 (3), 2009J. Lochard, I. Bogdevitch, E. Gallego, P. Hedemann-Jensen, A. McEwan, A. Nisbet, A. Oudiz, T. Schneider, P. Strand, Z. Carr, A. Janssens, T. Lazo,


もうひとつの問題として、ガラス・バッジで収集したデータでは、汚染地で暮らしている住民への影響を著しく過小評価しかねない。これは、たとえば(子どもたちが健康問題につながる屋外遊びを許されないなど)屋外ですごすことを避けるというように、人びとが行動を変えるからである。それ故、記録された線量は、通常のライフスタイルの場合に受ける線量より低くなる。そのような個人測定値が人びとを帰還させる決定の参考にされると、そのように変えられたライフスタイルが標準に設定されることになる。これは、人びとがリスクを避ける努力をすればするほど、送り返される地域の放射線レベルが高くなるという矛盾につながる。これでは、生活の質に関する基本的な問題が生じる。


IAEAフクシマ報告は、ガラス・バッジで収集したデータが、避難指示について決定するさいの立派な参照項目になるとほのめかしている。報告は環境モニタリングがじっさいの線量を「過大評価」し、バッジが「より厳密な情報」をもたらすと最初に述べており、「特定の行動に関連する控えめな決定、消費者製品に対する行動集中、沈滞した行動が広範な制約を招き、それにともなう困難をもたらした」とつづけた。日本の当局者たちは、過小評価の可能性と人びとの生活の質を考慮に入れずに、バッジの読み取り値を避難指示の解除を決定するための「より厳密な」データ情報源として頼るべきであるとIAEAフクシマ報告から結論することができる。


ガラス・バッジは個人防護のための個人線量計として用いるのに適しているが、市町村における避難指示解除のレベルを決めるのに適した手段であるとみなすべきではない。


汚染地への強制的な帰還――住民の安全は尊重されていない


ICRP勧告111は、「近年になって、当事者の関与が政策決定の最前線に押し出されてきた。委員会は、そのような関与がたいがいの現存被曝状況における放射線防護戦略の開発と実施の要であると考える」と述べる。


さらにこうつづける――「防護戦略、および包括的には復興計画において、影響を受けた住民の感情的な関与を促す条件を整え、手段を提供することは、当局者ら、とりわけ規制レベルの当局の責任である。汚染地域管理に関する過去の経験によって、防護戦略の実施に地方の専門家たちと住民が参画することが復興計画の維持にとって重要であることが実証されている」


IAEAフクシマ報告はまた、利害関係者の参画の重要性について次のように言及している――「成功するために、方針決定プロセスにおける影響を受けている住民の関与が必要である…」


しかしながら、この文書は、避難指示が2014年に解除された田村市(都路地区)や川内村、そのような決定が準備されている飯舘村など、福島県内に現存している紛争を認識していない。政府は避難指示を解除してから1年後に避難民に対する賠償金の支払いを停止する方針を掲げている7。たいがいの住民は自宅を所有し、別の家屋を自分たちの手で購入したり借りたりするのに足りる資金を持っていないので、このことは、彼らが望んでいなくても、汚染地域に帰還することを経済的に強いられることを意味する。人びとに帰還を強制することを「当事者の関与」の範疇でくくるのは無理である。汚染地域に帰りたいか否かについて、人びとはどのような場合でも選択権を持っているはずである。

7“Ministry plans to end TEPCO compensation to 55,000 Fukushima evacuees in 2018”, May 19 2015, https://ajw.asahi.com/article/0311disaster/fukushima/AJ201505190055

朝日新聞デジタル:東電の原発慰謝料「18年3月分まで」政府・与党検討


最適化原則の限定的な適用


ICRPによれば、緊急局面のあとの期間を指す用語である「現存状況」において、住民が被曝する線量を「合理的に」可能なかぎりに削減するために最適化原則が不可欠である。ICRP111は、「その目的は,個人線量を参考レベルより下に低減することをめざして最適化された防護戦略,すなわち段階的に進む一連の防護戦略を履行することである」8と明確に説明している。非常に重要なことに、ICRPは、「防護の最適化は,将来の被ばくを防止または低減することを目的とした前向きな反復プロセスである」と説き、参照レベルを時間経過とともに下げるべきであると勧告している。

8Application of the Commission's Recommendations to the Protection of People Living in Long-term Contaminated Areas after a Nuclear Accident or a Radiation Emergency ICRP Publication 111 Ann. ICRP 39 (3), 2009J. Lochard, I. Bogdevitch, E. Gallego, P. Hedemann-Jensen, A. McEwan, A. Nisbet, A. Oudiz, T. Schneider, P. Strand, Z. Carr, A. Janssens, T. Lazo, http://www.icrp.org/publication.asp?id=ICRP%20Publication%20111

ICRP111「原子力事故または放射線緊急事態後の長期汚染地域に居住する人々の防護に対する委員会勧告の適用」:http://www.icrp.org/docs/P111_Japanese.pdf


IAEAフクシマ報告は、「公衆消費製品の放射能許容レベルが規制機関による適用および国民の理解を促すためには、それが国際標準と一致している必要がある。国の標準は国際標準に合致しているべきである」と述べており、ICRP111勧告と矛盾しているようである。


今日、コメなどの食品に対する日本の参考レベルは、放射性セシウムに関して100 Bq/kgに設定されており、欧州連合で使われている標準より確かに低い。しかし、測定値がこの参考レベルを超えるコメの量は非常に少なく、これを市場から排除しても、日本の農業や経済に悪影響をもたらさない。さらにまた、もっと厳格な参考レベルを適用することは容易に実現可能であり、最適化を正しく適用すれば、これは論理的であるだろう(容易にできるのだから、実行すべきである)。IAEAフクシマ報告は日本の参考レベルが低いとほのめかしており、最適化原則を弱体化させようとしているが、これこそがフクシマのような「現存」状況における放射線防護の要石なのである。


正当化原則は、住民ではなく、核産業の利益を守る


IAEAフクシマ報告は防護対策を決定するための費用・便益アセスメントに言及し、「放射線量回避による潜在的な便益は、防護対策とその実施そのものによる個人的および社会的不利益に勝っていなければならない」と述べている。


費用と便益の均衡化の根底にある前提は、(費用=測定実施時の放射線リスクを含め、測定に要するコストであるに対して…便益=人の命を守り、癌を予防し、病気を未然に防ぐなど…として)全国民が等しく負担する共通の費用と等しく享受する便益を計算できるということである。


このような功利主義的な考えかたに潜んでいるかもいれない、もっと基本的な倫理問題を別にしても、これは非常に基本的な社会的葛藤を明らかに隠している。次にいくつか列挙するような利益相反(費用と便益の非対称性)が考えられる――


§   東京電力vs住民:(たとえば、死を避けるといった)測定の便益は人のためであり、(測定にかかる)費用は、東京電力(事故の損害に責任があり、偶発的な被曝を避けるための予防測定に費用を負担する責任を負う私企業)の負担になる。

§   地域間の利害衝突:最も被害の大きい地域(福島県、茨城県など)の住民vs日本の全国民の利害衝突が考えられる。日本のもうひとつの重要問題は、(通常の運転時に電力会社から賠償金を受領し、建設を承認する権限を付与されている)原子力発電所の立地市町村と(金銭を支払ってもらわず、建設の可否に関する発言権もない)周辺自治体の利害衝突である。福島第一原子力発電所から30 kmないし40 kmの浪江町や飯舘村は重大な被害をこうむったが、歴史的に賠償金を受領していない。その結果、損害をこうむっただけで、便益(限定市町村「税」)はない。これは、日本で停止中の反応炉43基の再稼働をめぐる論争の中心テーマ、再稼働に対する発言権をもつ自治体の範囲はどこまでか、承認権を付与される自治体の範囲をどこまで拡げるかといった論題になっている。

§   社会経済的な利害衝突:被害を受けた住民のうち、富裕層は被曝を削減するための選択肢(経済的補償がなくても、自主避難または移住する機会)に恵まれている。

§   世代間の利害衝突:住民のなかでも、世代間の利害が衝突する。若い人びとの場合、防護措置の潜在的な便益を最大限に享受するが、比較的に便益が小さくなる年配の世代がコストを負担することになる。日本でさらにまた、年配住民は移住に消極的である。このことは、年配の縁者の暮らしを支える若い世代を汚染レベルの高い地域に長期にわたり留めおく結果になる。緊急対策計画において、子どもたちの権利に特段の注意を払う必要がある。

§   長期的な世代間の利害衝突:事故に由来する健康に対する遺伝的な影響、汚染地域、放射性廃棄物管理は将来の世代に継承される。将来の世代を費用・便益比較に組み込むのは、倫理的に問題である。

§   高リスク集団vs低リスク集団:これは高レベルに被曝する(小)集団と低レベルに被曝する(大)集団の利害衝突である。集団線量の概念にもとづいて、費用・便益を杓子定規に解釈すれば、(たとえば、移住など)非常に経費のかかる手段を採用して、少数の人びとの被曝量を大幅に下げはしても、集団線量としては小幅な低減にしかならないのに対して、大人数で被曝量の少ない住民の被曝低減策を採用したほうが効果的であると数学的に結論するような状況につながりかねない。倫理的な観点に依拠し、社会経済的要因を考慮すれば、集団便益の最大化をめざすために、(「生贄」になる)この小集団に大きな重荷を負わせるのは、公平といえないだろう。これが、「限度」または参考レベルもまた活用しなければならない理由である。



IAEAフクシマ報告は、このような費用・便益の衝突を認識していない。その結果、事故の影響をこうむりながら、反応炉を建造する決定、貧弱な安全条件で反応炉を運転する状況、過酷事故の影響を管理する様相に対して、ほとんど影響力を行使できない人びとに比較して、リスクを出現させた連中(原子力事業者)の説明責任がほとんどないことになってしまう。



…つづく

*** 本稿の構成 ***

1.放射線と健康


3.安全リスク分析の欠陥(準備中)

グリーンピースが読み解くIAEAフクシマ報告【2.環境への影響】

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福島第一原子力発電所事故に関するIAEA報告概要:

予備的な分析



*** 目次 ***



2.環境への影響


3.安全リスク分析の欠陥(準備中)


******

2.環境への影響


環境汚染対策の不備


「田舎暮らしは、良い水を飲み、野山の食べ物を食べることができるので魅力的なのです。それが制限されるなら、生きているのではなく、生存しているだけなのです」――浪江町議会議長、吉田数博。


福島第一原子力発電所事故は膨大な量の放射性核種を、大気中拡散と太平洋への排水の形で放出した。これまで当然ながら、事故による人的影響が大きく注目されてきたが、環境汚染――および人間とヒト以外の動植物にとって、それが意味するもの――もまた、これまで以上に深く考察し、関心を払う値打ちがある。


IAEAは環境防護を次のように定義している――


「…保護と保全:動物と植物を併せたヒト以外の生物種、環境資源・サービス。この用語はまた、食糧と飼料の生産、農業、林業、漁業、観光業で使う資源、精神的、文化的、保養的な活動で享受するアメニティ、たとえば土壌などの媒体、水と空気、および炭素、窒素、水の循環などの自然過程を含む」9

9Fukushima Daiichi Accident, Summary Report by the Director General, Board of Governors. May 14 2015, IAEA 2015, pg. 157


定義の幅広さを考え、ヒト以外の環境だけでなく、人間が日々に使い、接触する――農産物、魚類、水、木製品などの――自然資源に対する潜在的な影響を慮るなら、フクシマ惨事の自然環境および動物種の分析において、注意深く、徹底的であるのが分別というものであろう。


IAEAフクシマ報告はこれに反して、福島第一原子力発電所の核惨事に起因する陸域放射能汚染の規模、範囲、複雑さを描き切っておらず、証拠もなしに、そのヒト以外の生物相に対する影響を見過ごしている10IAEAは分析要録において、こう結論づけている――「短期線量の推測値は概して急性的な悪影響が予期されるレベルをじゅうぶんに下回っており、事故後に線量率が比較的急速に低減しているので、長期的な影響もまた予想されない」11

10IAEA 2015, pg. 156

11IAEA pg. 157


下記に詳述するが、環境の放射能汚染による悪影響を示す実質的な証拠があり、これこそはIAEAがその存在を認識しないことを選んだものなのだ。


陸域の放射能堆積


潜在的な影響を理解するためには、惨事に起因する陸域汚染の規模に関して、なんらかの背景を知る必要がある。


IAEA独自の定義によれば、(ベータおよびガンマ放射体の)地表放射線レベルが40 kBq/m2を超えている土地が放射能汚染地であるとされる(2005, 2009)。IAEAはフクシマ報告において、空中放出量の大半が太平洋沖に搬出された――じっさい、そうだった――と繰り返し強調しているが、これは陸域汚染が取るに足りないことを意味していない。


IAEAフクシマ報告は、反応炉敷地から北西方向に極度に高レベルの放射性セシウムが堆積した。この地域の各所では、1,000 kBq/m2から10,000 kBq/m2の堆積濃度が記録されているという12IAEAがいう福島全県の平均セシウム137堆積濃度は100 kBq/m2である13。これは驚くべき数値であり、IAEA自体の汚染地指標値である40 kBq/m2をはるかに超えている。

12IAEA Fukushima Report, pg. 131

13IAEA Fukushima Report, pg. 131


この事実をさらに別の文脈に照らしてみると、チェルノブイリ周辺の最大限に汚染された、いくつかの地域では、40ないし1,480 kBq/m2の堆積濃度である14

14N. Evangeliou et al. (2015). Fire evolution in the radioactive forests of Ukraine and Belarus: future risks for the population and the environment. Ecological Monographs, 85(1), 2015, pp. 49–72.


また、当初に議論されていた放射性同位体――セシウム134、セシウム137、ヨウ素131――は懸念されるものであるが、これだけが惨事で放出された危険な放射性元素ではない。事故はセシウムや放射性ヨウ素に加えて、(骨に生物蓄積する)ストロンチウム90など、他にも多種類の放射性核種を放出した。さらにまた、路傍の黒色粉塵、福島全県の土壌、それに反応炉敷地から25ないし45 kmも離れていながら、ひどく汚染された飯舘村の土壌に対する試料検査の結果、超ウラン元素汚染物質が検出され、それが核燃料炉心と同じ超ウラン元素組成であると確認されており、それ故、福島第一原子力発電所惨事の結果、炉心成分が環境中に存在していると確定された15

15M. Yamamoto, et al. (2014). Isotopic Pu, Am and Cm signatures in environmental samples contaminated by the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant accident. Journal of Environmental Radioactivity. 132 (2014) 31- 46.


ほぼすべての試料で検出された元素は次のとおりである――プルトニウム238239240、アメリシウム241、キュリウム24224324416。これら危険な超ウラン元素の量こそ、ごく少量ではあるが、その半減期の長さと毒性を考えると、吸入すれば特に有害であり、摂取すれば潜在的に危険である。

16M. Yamamoto, et al. (2014). Isotopic Pu, Am and Cm signatures in environmental samples contaminated by the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant accident. Journal of Environmental Radioactivity. 132 (2014) 31- 46.


これら環境中に存在する元素のヒト以外の生物相に対する影響は探究されていないし――これらの汚染地で暮らし、あるいは汚染地域の自然資源および/または農産物を消費する人間の潜在的な被曝経路となれば、なおさらのことである。


放射能、森林、火災


放出された放射能の大半が内陸方向でなく、卓越風に乗って、東方向の海に運ばれていなければ、フクシマ事故はさらに大きな影響を日本にもたらしていただろう。


しかしながら、東北地方は山が多く、うっそうと森林に覆われた、おおむね冷涼な気候の寒帯林地であって17、それ故、陸域に堆積した放射能が森林地を大きく汚染した。植生はこの点で、主として寒帯林であるチェルノブイリ惨事現地の近隣地域に似通っている18。だから、チェルノブイリは有益な比較対象になる。

17J. Kolbek et al. (eds.), Forest Vegetation of Northeast Asia, 231-261. © 2003 Kluwer Academic Publishers.

18N. Evangeliou et al. (2015). Fire evolution in the radioactive forests of Ukraine and Belarus: future risks for the population and the environment. Ecological Monographs, 85(1), 2015, pp. 49–72.


両方の惨事ともに、森林地の広大な区域が高レベルに汚染され、惨事後の管理にまつわる困難な課題を突きつけている。ある観察者が述べたように、「日本における現在の復興計画は、住民が自宅に帰還できるようにするために、環境から汚染を除去することを中心に実施されている。このなりゆきにおいて(チェルノブイリ立入禁止区域に比較すると)、汚染された森林が、緩衝地帯ではなく、公衆の健康に対する脅威になる」19

19Bird, W.A and J.B. Little (2013). A Tale of Two Forests: Addressing Postnuclear Radiation at Chernobyl and Fukushima. Environmental Health Perspectives • volume 121 | number 3 | March 2013


IAEAは、環境汚染が急速に減少してこと、そして、このことに――放射能減衰に加えて――風化作用は大幅または部分的に寄与していることを前提にしている。これはある程度――とりわけ半減期がほんの8日にすぎない放射性ヨウ素に関連する場合――真実であるが、セシウム、ストロンチウム、超ウラン類など、半減期の長い放射性核種はいまだに環境中に多く存在しているのを理解しておくことが重要である。


さらにまたN・エヴァンジェリオら(2015)は、セシウム13720による生態系被害に関する最初の完全な論文「10年から、セシウム137の物理的半減期に等しい30年までの期間における地表土壌層の放射性セシウムの実効半減期計算値は地区によってばらついている」において、「セシウム137の実効半減期は、物理的崩壊に加えて、(垂直移動、大型貯水池への流出、土壌侵食など、あらゆる環境的除去過程を含む)生態的半減期が組み合わさったものである…」21と述べている。それ故、セシウム汚染が風化作用による放射性核種の半減期よりも迅速に低減するとは――測定で実証しないかぎり――考えられない。

20Bergan, T. D. 2000. Ecological half-lives of radioactive elements in semi-natural systems. NKS(97)FR5, ISBN 87- 7893-025-1.

21N. Evangeliou et al. (2015). Fire evolution in the radioactive forests of Ukraine and Belarus: future risks for the population and the environment. Ecological Monographs, 85(1), 2015, pp. 49–72


さらにまた、おおむね粘土質である地域内の土壌はセシウムを固定するし、風化作用に耐えもする22。日本政府は、キノコ類、野草、薪の採取、狩猟などを規制したものの、驚くべきことに汚染地域で伐採した木材の使用を制限しなかった23。これが意味することについて、また汚染木材が反応炉敷地から遠く離れた場所まで拡散した可能性について、IAEAも、日本政府も問題にしていない。

22, 23 Bird, W.A and J.B. Little (2013). A Tale of Two Forests: Addressing Postnuclear Radiation at Chernobyl and Fukushima. Environmental Health Perspectives • volume 121 | number 3 | March 2013


放射能汚染された森林の火災リスク


放射能汚染は活動的で相互連関した生態系に影響をおよぼすが、IAEAはその影響を検証したり説明したりしていない結果、リスクを著しく過小評価することになった。


チェルノブイリにおける研究によって、セシウムとスロンチウムの両方ともに、当初堆積時から長期にわたって土壌最上層に残留していることが実証された。これは植物(木々、草、菌類)の自然生命作用の結果である。植物が蒸発のために水分を奪われると、根系を通して補給分の水を吸い上げる。セシウムとスロンチウムはカリウムとカルシウムの化学的類似物である。これらの放射性で水溶性の塩類は、そうした必須栄養素を求める部位に取り込まれる24。そして、葉を含む、樹体に蓄積する。それが落葉すると、葉に含まれているセシウムとスロンチウムが土壌に還る。

24N. Evangeliou et al. (2015). Fire evolution in the radioactive forests of Ukraine and Belarus: future risks for the population and the environment. Ecological Monographs, 85(1), 2015, pp. 49–72


自然界の分解者に対する放射線の影響を考察すれば、このことは格別に問題になる。チェルノブイリとフクシマの周辺の核災害汚染森林は、食品長期保存策として一部の野菜類や果物類が放射線照射処理を施されるのと同じように、巨大な規模の照射を受けている。


放射線は自然分解者の多くを殺してしまう。分解者がいなくなれば、通常なら年とともに分解するはずだった落ち葉、枝、枯れ草が、そうならずに積み上げられていく。チェルノブイリでは、これが「燃料の梯子(はしご)」*と言い習わされ――火災の頻度を著しく増大させるとともに、急速に拡大しやすくする膨大な量の発火物を用意するのに加えて――森林火災が樹冠に達し、大規模な樹冠火災になるリスクを増大させる25

* 【訳注】fuel ladders。火が林床から樹冠から燃え上がるのを可能にする、枯れたり生きたりする植物体の総称を表す消防用語。

米国政府刊『森林火災の挙動入門』(S-190)イラスト

25N. Evangeliou et al. (2015). Fire evolution in the radioactive forests of Ukraine and Belarus: future risks for the population and the environment. Ecological Monographs, 85(1), 2015, pp. 49–72

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/en/thumb/a/a9/Ladderfuels.png/760px-Ladderfuels.png


汚染された森林が炎上すると、ストロンチウム、セシウム、プルトニウムが放出され、これが微細な粒子になっているので、吸引されることがありうる26。樹冠火災は、森林に含まれる放射性核種の最大40%を大気中に放出することがあるので――また、放出放射能が上層大気に達し、遠距離を運ばれることがあるので――とりわけ問題になる27。おまけに、セシウムは沸点が低いので、たとえ土壌中に固定されていても、野火で部分的に蒸発し、煙とともに運ばれる28

26Hao, W. M., O. O. Bondarenko, S. Zibtsev, and D. Hutton. 2009. Vegetation fires, smoke emissions, and dispersio of radionuclides in the Chernobyl Exclusion Zone. Pages 265– 275 in A. Bytnerowicz, M. J. Arbaugh, A. R. Riebau, and C. Andersen, editors. Developments in environmental science. Volume 8. Elsevier, Amsterdam, The Netherlands.

27, 28 N. Evangeliou et al. (2015). Fire evolution in the radioactive forests of Ukraine and Belarus: future risks for the population and the environment. Ecological Monographs, 85(1), 2015, pp. 49–72.


したがって、以前は汚染森林に隔離されていた放射性核種が、火災によって再び移動し――時には元の場所からはるか彼方まで――再び運ばれることがあるし、森林のなかに放射能が存在すること自体が、野火の頻度、規模、勢いを増大させる形で生態系の破壊要因になる。


チェルノブイリの立入禁止区域と汚染地域で増えている火災が、反応炉と暫定廃棄処分場の安全を脅かすだけでなく、大気中に放射能を放出しているので、近年になって、この憂慮すべき悪循環は国際的な注目の的になった。


それ故、放射能を帯びた森林を、緩衝地帯、あるいは同類の隔離メカニズムとみなすわけにはいかない。この森林汚染から持ち上がる問題は、風や水の風化作用による再拡散の可能性を遥かに超えて大きい。これはむしろ、潜在的に深刻な人間の健康に対する影響および/または農地の再汚染につながる放射能の再放出を引き起こす火種なのである。


ヒト以外の動物に対する影響


IAEAの報告概要は、健康への影響や急性効果が観察されるとは予想しないというばかりで、福島第一原子力発電所事故で放出された汚染物質のヒト以外の動物に対する影響に言及していない。チェルノブイリはこの分野でもまた、フクシマ周辺の生態系に予期されうる事態を知るための比較対象になる。


長期にわたる大規模な研究によって、チェルノブイリ周辺の動物集団における発育異常が明らかになっている。モラーらによれば、放射能レベルが高い環境は、動物の酸化ストレスを増大させる。大型の頭脳を維持するために、つまり脳が正常に機能するには、大量の酸素の継続的な供給が必要である――すなわち、大きな脳を持つことは、高度の酸化プロセスを抱えることである。重度に汚染されている地域のように、バックグラウンド酸化ストレスが高い場合、脳が大きい個体は、酸素要求量の少ない個体に比べて、体にかかるストレスが大きいので、生態学的な不利な立場に置かれている。このため、脳の小さな個体のほうが有利になり、汚染地域における長期的な傾向として、個体群の脳のサイズが縮小していくことになる。この脳に見る異常な現象――お好みなら、脳の退化――は。チェルノブイリの鳥類集団について記録されている29

29Møller AP, Bonisoli-Alquati A, Rudolfsen G, Mousseau TA (2011) Chernobyl Birds Have Smaller Brains. PLoS ONE 6(2): e16862. doi:10.1371/ journal.pone.001686


チェルノブイリ周辺の鳥類は、脳の縮小に加えて、白内障30、腫瘍疾患31、色素欠乏症31の増加が認められる。

30A.P. Møllera and T.A. Mousseau. Elevated Frequency of Cataracts in Birds from Chernobyl. Published: July 30, 2013 DOI: 10.1371/journal.pone.0066939.

31A.P. Møllera, A. Bonisoli-Alquatib, T.A. Mousseau. High frequency of albinism and tumours in free-living birds around Chernobyl. Mutation Research/Genetic Toxicology and Environmental Mutagenesis. Volume 757, Issue 1, 18 September 2013, Pages 52–59.


フクシマ周辺における動物集団に対する有意の影響を認めるには、まだ時期尚早であるものの、フクシマ周辺における同様な研究によって、鳥類と虫類の生息数の減少が示された。フクシマの鳥類集団に関する最近の研究は次のように結論している――「バックグラウンド放射線レベルが高くなると、有意の種間変異が認められるが、鳥類の個体数が減少した。バックグラウンド放射線レベルが時間の経過とともに低減したにもかかわらず、個体数と放射線の関係は時間の経過とともに逆比例になっていった。栄養レベルが高い場合、個体数と放射線の逆比例関係は緩和された。これらの知見は、個体数と種の多様性に対する放射能の悪影響が時間の経過とともに蓄積するという仮説と一致している」32

32Cumulative effects of radioactivity from Fukushima on the abundance and biodiversity of birds A. P. Møller1 • I. Nishiumi2 • T. A. Mousseau, March 3 2015, Journal of Ornithology DOI 10.1007/s10336-015-1197-2, http://cricket.biol.sc.edu/chernobyl/papers/Moller-et-al-JO-2015b.pdf, また、「われわれが評価した生物指標は雛の反応をなんら示さなかったが、われわれのツバメ生息数調査は福島地域における数種の鳥類の生息数減少に関する以前の知見を確認するものだった。さらにまた、放射線被曝レベルが高くなれば、幼鳥の比率が減少したことで実証されたように、生息数減少の原因が繁殖率の低下および/または巣立ち率の低下であることが示唆された」。“Abundance and genetic damage of barn swallows from Fukushima”, A. Bonisoli-Alquati, K. Koyama, D. J. Tedeschi, W. Kitamura, H. Sukuzi, S. Ostermiller, E. Arai, A. P. Møller & T. A. Mousseau, Scientific Reports 5, Nature, Article number: 9432 doi:10.1038/srep09432, April 2 2015,

【日本語訳】Nature誌サイエンス・リポーツ【論文】T・ムソーら「福島のツバメの生息密度と遺伝子損傷


こうした影響をじっさいに検証している科学者たちは、IAEAフクシマ報告に見る、環境に対する放射線の影響の皮相的な否認とは対照的に、次のように結論した――「われわれは、広範な地域において長期にわたって実施した、綿密で再現性の高い観察にもとづいており、種の多様性とさまざまな鳥類種の個体数の豊富さが福島における高レベルのバックグラウンド放射線によって抑制されているという仮説と一致している実質的な証拠を示した」


この重要な研究は、ストレスを受けた生態系を示す初期の指標であると考えてよい33

33A.P. Møllera, et al., Differences in effects of Radiation on abundance of Animal in Fukushima and Chernobyl. Ecological Indicators 24 (2013) 75–81


結論


IAEAフクシマ報告は、その結論が「事故直後の時期に実施された観察調査は限られてはいるが、放射線に起因する動植物に対する直接的な影響に関して報告されている観察(の不足)」にもとづいていると記す(太字強調は著者による)。そしてまた、「このアセスメントに用いられたモデルにともなう全般的な不確実性は大きく、環境の変遷に関する想定にかかわる場合、なおさらのことである。これらのアセスメントは単純な想定にもとづいており、通常の場合、不確実性を考えて、控えめな想定を採用している。蓄積線量を放射線効果に関連づける基準は、急性被曝より慢性被曝に関連づけられ、また個体群や「生態系」ではなく、限られた範囲の個体に関連づけられている。現在の手法は、生態系の構成要素の相互作用を考慮に入れていないし、あるいは放射線とその他の環境ストレス要因が組み合わさった影響もそうである」(太字強調は著者による)34

34IAEA Fukushima Report, pg. 157


参照生物相は特定の動植物種に対する潜在的影響に関する当初の意味を付与するかもしれないが、これらの生物が、個体間で、あるいはみずからの環境と相互作用している――それ故、両者が環境汚染物質と接触し、それを移動させ、あるいは生物濃縮させている――様相をもまた完全に無視しながら、生物に対する将来の環境的影響を全面的にありえないとして否認していては、単純に信頼できない。理解が足りないだけでなく、結論の対象――この場合、フクシマに起因する甚大な放射能汚染によって将来に予期される環境的な影響――を理解したり解析したりする努力がまったく欠けていれば、結論を引き出すことはできない。


フクシマの放射能によるヒト以外の環境に対する影響は予想されないとするIAEAの分析には、信頼性が全面的に欠けている。よくいっても、環境問題に向かって、ぞんざいな一瞥をくれているにすぎない。最悪の場合、複雑なシステム分析を意図的に過剰単純化して、放射能汚染による環境とヒト以外の動物に対する現実の影響を指摘する既存の科学的証拠を無視している。


フクシマ報告が福島第一原子力発電所事故による環境放射能の影響に関する理解と論議を型にはめるIAEAの企てであることを考えると、その手法と結論に見る致命的な欠陥は、地域社会の人びとが環境資源を使い、農産物を食べており、ヒト以外の環境と相互作用しているので、公衆に不当なリスクを押し付けかねないものである。IAEAは非常にリアルな問題を否認することによって、レトリックと空虚な安請け合いをもてあそび、健全な科学的解析と公共の安全を提示していない。


*** 本稿の構成 ****




2.環境への影響


3.安全リスク分析の欠陥(準備中)


グリーンピースが読み解くIAEAフクシマ報告【3.安全リスク解析の欠陥】

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福島第一原子力発電所事故に関するIAEA報告概要:

予備的な分析


*** 目次 ***





3.安全リスク解析の欠陥

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3.安全性リスク解析の欠陥

IAEAフクシマ報告は、20113月の核事故に関する決定的な報告として提出され、「事故の原因と結果、ならびに教訓に対する、事実に準拠し、偏りのない、権威ある評価」を提示するとされている。


この最新報告は、1986年のチェルノブイリ核事故のあとに提出された過去のIEAE報告35と同じく、明確な目的を帯びており、核安全基準の開発の責任を担う国際機関36こそが、核の過酷事故に関して、最も包括的であり、それ故、信頼しうる理解を備えており、その結果、核安全基準が将来の事故を回避できると確信させるくれるレベルにまで引き上げられたと世界に発信する(そして、信じさせる)ためのものである。これが彼らのメッセージなのだが、過去においても、現在においても、あるいは将来においても、現実にもとづいてはいない。


核の安全神話――チェルノブイリからフクシマを経て今日まで


IAEA50年間にわたり原子力の拡大を推進してきた。その同じ期間を通して、IAEAは核安全基準を提案・開発し、これを加盟諸国政府が国の規制基準に採用すれば、核の安全性を確保することができると主張してきた。チェルノブイリ事故後の歳月、また福島第一原子力発電所の核事故以前の時期において、IAEAは、その進化する高基準を採用することによって、核発電所を安全に操業できると主張していた。


1991年の『原子力の安全性――未来のための戦略』に関するIAEA総会は、核の安全性における里程標であった。この会議の目的は、原子力安全問題の再検討にあり、核の安全性に対する関心を喚起し、核の安全性を最高レベルに前進させるために各国および国際的な当局機関が実施すべき将来の行動に関する勧告を制定するために国際合意を達成することが求められていた」


フクシマ報告で評定された問題の多く――規制の不備、外的事象に対する無関心、時代遅れの反応炉設計――は、チェルノブイリに関するIAEA報告でも同じように論評され、公表されていた。核の安全の分野において、1986年のチェルノブイリが国際核産業に与えた衝撃は、その後何年にもわたって、慎重に管理された情報伝達の形で波紋を広げていた。安全基準は改善されただろうし、これが学びとった教訓と併せて、世界の原子力発電所の安全操業につながったことだろう。IAEAは当時、核の規制機関と規制に寄せられる信任が、原子力発電所を安全に操業することができるという公衆の信頼と相関していることを知っていた。事故が歴史のかなたに遠ざかるにつれて、核産業とIAEAは原子力の利点を謳いあげ、過酷事故の低リスクを強調し、この見解を宣伝した37。いざ過酷事故に際しては、人間の健康と環境に対する影響に関して最小限の結末を情報発信することが標準実施要項になった。フクシマ報告は彼らの戦略の次なる局面である。


福島第一原子力発電所事故の直前の各年において、IAEAは一貫して、日本を含め、世界の核安全基準に全般的に満足していると報告していた38


したがって、福島第一原子力発電所の事故は、IAEAと世界の核産業にとって、痛烈な打撃になった。事故勃発の1か月後、IAEAと加盟諸国は核の安全性に関する会議の結論として、明白な理由により、上記の満足すべき世界安全基準の言及部分を削除した39

39http://www-ns.iaea.org/downloads/ni/safety_convention/sr2011/cns-rm5-summary-report_englsih_final_signed.pdf. IAEA2011年の前年に日本の規制機関に関する安全問題を提起していたが、基準を引き上げなければ、多重反応炉メルトダウンのリスクが大きいことを公表しなかった。


前回のチェルノブイリのときもそうだったが、IAEA、規制機関、産業にとって、フクシマの教訓を学んでいると見られることが優先課題である。核は安全という社会的認知がなければ、核規制に信頼がなく、したがって、原発の操業が脅かされる。日本ほどにこれが真実である国はなく、そこでは目下、残っている43基の商業用核反応炉が停止したままである。


IAEAフクシマ報告は、日本において、また国際的にも信頼を回復する戦略の中心的な要素である。だが、その報告はフクシマとその結果を評価しているとは、とても言えない代物である。IAEAにとって、課題は事故を招いた過去の明白な失敗に向き合うことだが、放射線リスクと環境への影響など、事故の悪影響を侮り、東京電力が現在の危機を管理するうえで達成した前進について、肯定的な面を強調しようと企てている。これと同じように、IAEA2011年以前に日本の規制当局が採用していた、かつての安全基準を批判しているが、同時に、日本の核反応炉に適用されている現在の新たな規制基準について、肯定的な面を強調しないではおられない。


IAEAは、この予備的な論評で実証することをめざしているのだろうが、福島第一原子力発電所事故の結果を正確に反省することに基本的な分野で失敗しており、いまや原子力規制委員会(NRA)が管轄している核規制が世界最高レベルであると謳っても、その証拠をなんら示していない40

40 原子力規制委員会、田中俊一委員長「すべての規制について不断の改善を行い、日本の原子力規制を常に世界最高レベルのものに維持してまいります」http://www.nsr.go.jp/nra/gaiyou/profile02.html


IAEAフクシマ報告の偽りの前提と核反応炉の再稼働


IAEAフクシマ報告の公言された役割は、事故の原因と結果について、事実に準拠し、偏りのない、権威ある評価を提示することである。われわれは下記に詳述するように、役割そのものが――これほど「権威ある」評価を可能にする、あらゆる情報が現在の時点で得られるという――偽りの前提にもとづくと謳ってはいても、IAEAによる解析の主だった欠点を調べることにする。この主張には複合的な問題があり、とりわけ複数核反応炉メルトダウンにつながった現実の事象には未知の要素が数多く残っている。核事故の詳細事項を理解する必要があることは、日本と世界の核の安全性を評価するうえで基本原則である。


日本の国会が設置した東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(NAIIC=国会事故調)は早くも2012年に次のような事実を提起していた――「事故が実際にどのように進展していったかに関しては、重要な点において解明されていないことが多い。その大きな理由の一つは、本事故の推移と直接関係する重要な機器・配管類のほとんどが、この先何年も実際に立ち入ってつぶさに調査、検証することのできない原子炉建屋及び原子炉格納容器内部にあるためである」*

* [訳注]国会事故調報告要約版;


IAEAフクシマ報告はそのような困惑を一切表明しないで、事故の全体像を理解したと情報発信する共通の目的にもとづき、事故、その経緯、原因に関する結論をこぞって発表した東京電力41、日本政府、原子力規制委員会の所業に与している。この試みには単純な理由がある。事故原因を含めた事故の全体像を把握していると表明することができなければ、われわれは事故の教訓を学んだのであり、核の安全性に対する新たな規制は信頼するに足りるものであると日本国民に保証しても、拒絶されるだけである。IAEAフクシマ報告はこの意味で、今後の長年にわたり核反応炉を再稼働する日本政府の計画の基幹部分なのである。

41Fukushima Nuclear Accident Analysis Report June 20, 2012 Tokyo Electric Power Company, Inc.,

福島原子力事故調査報告書、平成24年6月20日、東京電力株式会社


不確定要素の無視


事故勃発から4年たって、IAEAと日本の権威筋の言い草に相反して、国会事故調などが提起した問題の多くがまだ答えられていない。


IAEAは、基幹的な安全機能を担う機器は地震による損傷を受けておらず、事故の主要原因は津波だったと言い切る東電と同じ言い分を採りいれている。政府もまた同類の事故報告を作成し、国際原子力機関(IAEA)に提出した。これがいま、フクシマ報告に組み込まれている。「施設の主だった安全機能が2011311日の地震によって生じた振動性地動の被害を受けた兆候は認められなかった。これは、日本の原子力発電所の耐震設計と建設における慎重な手法のおかげであり、それが適切な安全余裕を備える施設として結実していた」


まったく耳を疑うIAEAの言い分である――明白なことに、福島第一原子力発電所の三重炉心メルトダウンは適切な安全余裕がなかったことを実証している。


IAEAフクシマ報告は日本の国会事故調が提起した問題に対処できていない。委員たちが結論づけたように、「東京電力はあまりにも拙速に津波が原子力事故の原因であると唱え、地震がなんらかの故障の原因になったことを否定した。われわれは、安全確保に必要な機器が地震で損傷した可能性があり、また(福島第一原子力発電所)1号炉で小破口冷却材喪失事故が発生した可能性があると信じている。われわれはこれらの点が第三者によってさらに検証されるものと願っている」


国会事故調の勧告が心からの願いであったとしても、事故における地震の影響に関する第三者による検証は日本政府と核産業に無視されてきた。すでに厳しい疑いの目を向けられている日本の原子力の未来は、地震による衝撃が事故の決定的な原因であったと確認されれば、致命的な打撃をこうむることになるだろう。核産業と現在の日本政府が掲げるエネルギー政策が未来にチャンスを賭けるとすれば、津波原因説に注力することが不可欠である。国会事故調はIAEAフクシマ報告とは対照的に、次のような基本的な問題点を提起している――


「本事故の直接的原因は、地震及び地震に誘発された津波という自然現象であるが、事故が実際にどのように進展していったかに関しては、重要な点において解明されていないことが多い。その大きな理由の一つは、本事故の推移と直接関係する重要な機器・配管類のほとんどが、この先何年も実際に立ち入ってつぶさに調査、検証することのできない原子炉建屋及び原子炉格納容器内部にあるためである」42

42国会事故調は次のような結論に達していた――「関係者たちは地震と津波の両方によるリスクに気づいていた。さらに以下の事実を考慮すれば、1号機の損傷は、津波だけでなく、地震が原因になっていたと結論せざるをえない。(1)スクラム(原子炉緊急停止)のあとに最大の揺れが襲い、(2)原子力安全基盤機構が小規模のLOCA(冷却材喪失事故)が起こっていた可能性を認め、(31号機の運転員らが弁からの冷却材漏出を心配しており、(4)逃がし安全弁(SR弁)が作動していなかった。さらにまた、外部電源喪失の原因は二つあり、両者ともに地震関連のものだった。外部送電系は地震に対して多様性、独立性が確保されておらず、東電新福島変電所の耐震性は不足していた」。


IAEAフクシマ報告は上記したような不確実性を認めるどころか、福島第一原子力発電所は適切な安全余裕を備えていたのであり、耐震性は万全だったと断言するばかりである。


IAEAは日本の現在の規制に対して無策


「すべての規制について不断の改善を行い

日本の原子力規制を常に世界最高レベルのものに維持してまいります」

――原子力規制委員会、田中俊一委員長


IAEAフクシマ報告は、福島第一原子力発電所に関連してこう述べている――「事故時に実施されていた規制、ガイドライン、手順は、最悪のものとして、定期安全点検、危険の再評価、過酷事故対策、安全文化に関連して、一部の分野において、国際慣行と完全には一致していなかった」


フクシマ報告は当然ながら、2011年に福島第一原子力発電所を監督していた規制当局、原子力安全・保安院(NISA)に批判的だった。残念なことに、20113月に勃発した福島第一原子力発電所事故の以前における日本の核規制の不備は、原子力規制委員会(NRC)が管轄する現在の核規制にもまた多くの分野であてはまっている。NRAは重要な分野で、IAEA勧告を含め、国際慣行を遵守していない。これは、IAEAがフクシマ報告で言及していることではない。フクシマ報告はそれどころか、核の安全を考察するにさいし、日本における新規制機関の設立を全面的な皮相的な表現で記述している。NRAに割いた紙幅は1ページに満たず、IAEAが描いてみせる印象は、以前の規制機関であるNISAの機能不全の多くが、核施設事業者に対する新たな規制と要件で対処されているというもの。現実はまったく違う。


今日の日本における基本的な安全規制の現状に見る弱点、そして現在の状況に対するIAEAフクシマ報告の無策ぶりを示す好例として、川内原子力発電所の実例が将来における核の過酷事故のリスクを浮き彫りにしている。鹿児島県に立地する九州電力・川内原子力発電所の加圧水型反応炉2基は、NRA審査手続きが最も早く進み、近いうちの運転再開が予定されており、1号機が20157月に再稼働し、2号機が9月下旬にはそれにつづく計画になっている。


IAEAフクシマ報告は次のようにいう――


「包括的な確率的・確定的安全性解析なるものは、設計基準を超えた事故に適用しても耐えうる施設の能力を確認し、施設設計の頑健性における高度の信頼性を付与するために実施されている必要がある。


「安全性解析は、設計基準を超えた事故を評価するためにも、それへの対応戦略を開発するためにも使うことができ、確率的手法および確定的手法の両者の使用を含むであろう。福島第一原子力発電所において実施された確率的安全性解析は範囲が限られ、内的および外的な発生源からの冠水の可能性を考慮していなかった。これらの研究の限界が、運転員らが活用できる事故管理手順の範囲の限定に寄与していた」


IAEAがもとめる確率的解析(PRA)はなにも新しいものではなく、チェルノブイリ事故につづく時期から言われていたことである。これは世界的に核規制の標準として使われている。しかし、IAEAが確率的解析に寄せる信頼には、それ自体に問題がある。たとえば――


§   マサチューセッツ工科大学(MIT)研究が指摘するように、確率的解析は、複雑系における事故の多くを特徴づける、間接的で非線形性であり、かつフィードバックする相互関係を説明できない。

43The Future Of Nuclear Power An Interdisciplinary MIT Study, 2003,

http://web.mit.edu/nuclearpower/pdf/nuclearpower-full.pdf, as cited in “Beyond our imagination: Fukushima and the problem of assessing risk”, M. V. Ramana,


§   人間の行為、およびそれが、未知どころか、既知の欠陥様式にもたらす影響をモデル化することが不得手である。


§   米国の原子力規制委員会(NRC)は、事故発生系統樹および故障発生系統樹の構築において数学的な意味で完璧を期すことは概念として不可能であると結論づけている44…このような内在的な限界は、この手法を用いるいかなる計算も、常に改訂する必要があり、それでも完全性に疑問がつきまとうことになる45

44Risk Assessment Review Group Report T O T H E U.S. Nuclear Regulatory Commission, H. W. Lewis, Chairman, NRC, 1978,

45ある解析専門家が認めたように、「確率的解析を用いて解明した全般的な事故確率に関する結論は、信頼するに足るものからほど遠い代物である。人が考えだす、おそらく唯一のしっかりした結論は、2件の大事故が似ていないというものだろう。核施設における過酷事故は歴史的にいって、さまざまなきっかけがあり、さまざまな経過をたどり、さまざまな影響をおよぼしてきた。過酷事故はさまざまな国における複数の設計の反応炉で起こってきた。つまり、残念なことに、フクシマ惨事のきっちり同じ再現に対して身構えることはできるかもしれないが、次回の核事故はたぶん事故誘発要因と故障の異なった組み合わせが原因になって起こることだろう。その組み合わせがどのようなものになるか、予測するための信頼できるツールはないのであり、したがって、そのような事故から守られていると確信することは無理な相談である」、“Beyond our imagination: Fukushima and the problem of assessing risk”, M. V. Ramana,


IAEAフクシマ報告は、20113月の事故に先立って、確率的解析が福島第一原子力発電所に適用されたと認めているが、「IAEA安全基準が推奨する確率的安全性アセスメントによって完全に評価されない、なんらかの弱点」があったという。


IAEAフクシマ報告は、確率的解析こそが核のリスクを評価するためのほとんど万能の決め手であって、これを核の安全性に適用すれば、安全であること間違いなしと述べている。だが、ある核アナリストは次のように結論している――


「確率的リスク評価が単なる秘儀であり、核技術者らが部外秘で執行しているのなら、信頼性に欠けていても、反応炉を設計したり運転したりしている連中を自信過剰にする点は別にして、それほど心配する理由はないだろう。問題であるのは、これを実施することで得られた少数の数値が複雑な計算の結果であると広く見られ、とりわけ政策立案者たちと大衆に対して、偽りの、または見当外れの具体性とでも呼ぶしかない代物を植え付ける効果をおよぼすことである」46

46“Beyond our imagination: Fukushima and the problem of assessing risk”, M. V. Ramana, (page 82) http://thebulletin.org/beyond-our-imagination-fukushima-and-problem-assessing-risk-0


IAEAフクシマ報告の確率的解析手法の眼目は、2011年の事故から学んだ教訓を伝え、核規制の信頼を回復することにある――だが、現実世界において核の安全性を担保する根拠はない。


IAEAフクシマ報告の言い草と日本における現在の核規制のあいだの断絶は、原子力規制委員会(NRC)が操業再開に向けてリスク解析の対象にする核反応炉を選んだやりかたを見れば、さらに浮き彫りになる。現在、24基の反応炉がNRCの審査を受けている。


IAEA勧告を適用し損ねている日本の規制機関の現状


NRCIAEAが勧告する包括的安全解析の実施を、川内原発のオーナー企業を含む日本の核事業者に求めていない。NRCは電力会社が確率的地震ハザード解析(PSHA)および確率的津波ハザード解析(PTHA)を用意することを求めている。川内原発の核反応炉については、両方とも終えている。このような確率的ハザード解析は、特定の現象について、この場合は地震と津波について、その規模、つまり重大さを発生頻度の関数として決定することを意図するものである。


しかしながら、NRAはガイドラインのフクシマ後を踏まえた改訂版のもとで、九州電力に対しても、他の原発企業に対しても、いわゆる炉心損傷頻度、つまり反応炉心損傷の発生リスク、あるいはいわゆる早期大規模放出割合(LERF)、つまり過酷事故で放出される放射能の量を決定するのに役立つだろうとIAEAがいう確率的リスク解析(PRA)の実施を求めていない。


それ故、NRAは確率的リスク解析を求めずに、基準の低い確率的ハザード解析を受けいれたのである。福島第一原子力発電所事故の前に犯された過ちを正すために、IAEAが包括的な適用を勧告したが、現実として、NRAが採用しなかったものだから、われわれは重大な欠陥のある手法が採用されている状況を押し付けられている。


地震リスクの過小評価とNRAの不作為


IAEAフクシマ報告は次のように述べる――


「天災のアセスメントはじゅうぶんに保守的であることを要する。原子力発電所の設計基準の策定にあたって、主として歴史的なデータを考慮するだけでは、極端な自然災害のリスクを特色づけるのにじゅうぶんではない。総合的なデータが使える場合でさえ、観測期間が比較的に短いため、天災の予測に大幅な不確実性が残る。頻度確率が非常に低い極端な自然事象が重大な影響をもたらしかねず、また極端な自然災害の予測には不確実性が残るので、困難と物議がつきまとう」p. 80


川内原子力発電所に対するNRAの審査手続きは、規制機関と九州電力がIAEAの唱える保守的な手法を遵守していないことを明らかにしている。


NRAの耐震安全ガイドラインには断層線が走っており、川内原発の反応炉に対する審査手続きのさいに見受けられたNRCの不当行為が、日本屈指の批判的な地震学者にして国会事故調の委員、石橋克彦教授47、およびゼネラル・エレクトリック社の元核技術者、佐藤暁(さとし)氏によって記録された。

47いしばし・かつひこ。神戸大学名誉教授、地震学研究者、国会・東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の委員。2015427日、日本外国特派員協会におけるプレゼンテーション。


石橋教授の報告によれば、NRA規制は標準地震動(SSM)(敷地内の遊離岩表面における上下動および水平動)が「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」および「震源を特定せずに策定する地震動」を策定し、それらにもとづき策定されると規定している。「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」は、敷地に重大な影響をおよぼすことが予測される複数の地震(検討用地震)を、内陸地殻内地震、プレート間地震、海洋地殻内地震に選定して、選定された検討用地震ごとに地震動の評価を実施することによって策定される。


しかし、九州電力は独自の基準にもとづき、川内原発反応炉に対する歴史上の地震の影響を調査した。同社は、最大規模のプレート間および海洋プレート間の地震の震源域は原発の敷地からはるかに遠く離れており、それ故、最大設計地震(S1)は基準以下になるであろうと結論づけた。九州電力はプレート間および海洋プレート間の地震を検討用地震に選定する必要はないと結論したのである――この類いの地震が電力会社によってふるい落とされ、NRAはこの手法を容認したのである。しかし、石橋教授が指摘しているように、内陸地殻内地震の一部は、九州電力が提出し、NRAが後追い承認した川内アセスメントに含まれる地震よりも大きい。


南海トラフ地震断層によるリスクもまた一顧だにされず、九州電力によってふるい落とされた48。南海トラフ地震を考慮にいれることは、川内原発の標準地震動の策定に欠かせない。南海トラフはマグニチュード9.1級の激震を起こしかねないと推測されている。石橋教授は、最大限度の断層パラメーターを設定して南海トラフ地震による地震動を策定すれば、地震動が川内原発と反応炉の最大設計地震を超える可能性があることを実証した。そのうえ、NRAは、検討対象の地震を選定するさいに、南海トラフなどにおけるプレート・テクトニクスを包括的に考慮すべきものとすることと九州電力に求めている。ところが、福島第一原子力発電所の核惨事から4年後のいま、電力会社はそれを除外してしまった。

48南海トラフは、本州中部の静岡県から九州にかけて約700キロにわたって延びる沖合の海溝である。これは、海洋プレートが大陸プレートの下に潜り込むことにより、頻繁に地震が発生している地帯である。“Experts say M9 Nankai Trough earthquake would kill hundreds of thousands”,August 30 2012,


核技術者、佐藤暁氏は、安全設計の基準となる地震動を策定するさい、10,000年から100,000年に1回の頻度(年超過率10-410-5)で発生する規模の地震を基準とするようにIAEAが推奨しているが、九州電力が提示している設計基準地震動はそれに反して、部分的に1,000年から10,000年に1回(年超過率10-310-4)という高頻度の発生確率が示されていると書き記した49NRAはこのように、IAEAが勧告する基準を適用することを九州電力に要求しなかったのである。

49“Technical issues of Japanese seismic evaluations from the point of global and Japanese standards” Satoshi Sato, commissioned by Greenpeace,

グリーンピース委託レポート:佐藤暁「川内原発における耐震性評価の問題:国際基準と日本基準」


NRAに提出し、受理された川内原発反応炉の建設許可申請書においては、免震隔離建屋の震源として大陸地殻だけが考慮されており、プレート境界および海洋プレート内部の震源は除外されている。その結果、過去の核事故において重大な影響をおよぼしていた振動スペクトルの低周波数(長周期)領域における地震の影響は過小評価されてきた。


振動スペクトルの低周波数(長周期)領域の地震動は、旋回天井クレーン、低圧タービン回転子、地下配管など、機械装置類に甚大な被害をもたらすだけでなく、膨潤液体(水はね作用)によって反応炉建屋内のタンク、プール、変圧器の破壊を誘発しかねない。


IAEAフクシマ報告は、前の規制機関である原子力安全・保安院による規制の弱点を詳細に列挙しているが、その保安院はしっかりした対策に抵抗する原子力事業者を抑えられず、その結果が福島第一原子力発電所事故の一因になった。


ところが2015年、NRAの審査手続きが川内原発1号機の最終安全審査を完了する段になって、NRAは九州電力のフクシマ後規制に対する違反を是認し、すなわち、原発の安全に必須である耐震基準を不適切なままに容認したのである。IAEAフクシマ報告は日本における新しい耐震規制要件の現在の欠陥にも、またその誤用にもなんら言及していない。


石橋教授は2006年の耐震指針が最高水準の基準を採用しなかったのを不服として検討委員会の委員を辞任しており5020年近くにわたり、地震が誘発する核の過酷事故について警告してきたが、川内原発に対するNRC審査の基礎に関して、次のように結論している――

50“Why Worry? Japan's Nuclear Plants at Grave Risk From Quake Damage,” by Katsuhiko Ishibashi, posted at Japan Focus on August 11 2007,


「いつか、どこかの原子力発電所で、その施設の基準地震動をはるかに超える地震が発生するのは避けられませんし、これが第2の原発震災(地震と核の複合災害)を引き起こすことがじゅうぶん考えられます」51

512015427日、日本外国特派員協会における石橋教授のプレゼンテーション


もうひとつの外部事象――火山


前述したように、IAEAフクシマ報告は天災を慎重に評価する必要性を強調している。川内原発の反応炉、そして他にも日本の複数の原発の場合、そのような災害のひとつが大規模な火山噴火によるリスクである。川内原発は桜島の活火山から50キロの場所に立地している。この面でもまた、川内原発に対する火山ハザードを考えると、NRAIAEAが勧告する基準を昨年から適用していない。具体的にいえば、NRAは、いわゆる設計基準――核施設運営者は施設が極端な火山事象に耐えられるように改修しなければならないとする要件を含む――2012年のIAEA火山安全指針52の要になる勧告を適用していない。九州電力は欠陥のある史料分析を頼りにしており、川内の核反応炉に到達する可能性があり、敷地内外の放射線に関連する重大な結末を招きかねない火山灰降下物を過小評価している。

52IAEA Volcanic Hazards in Site Evaluation for Nuclear InstallationsIAEA「原子力発電所等の立地評価における火山ハザード」)、Specific Safety Guide No SSG-21, IAEA 2012,


大規模な火山灰堆積の重大な結果のひとつとして、それが共通モード故障[同時多発的な故障]を誘発しかねず、そうなれば、安全機器とその機能、また核施設内外における他の日常的な機器類稼働状況の不全という結果になりかねない――降灰の影響がひとつであれば、それ自体が単独では施設を機能不全に陥れるのに充分でないかもしれないが、複数の故障が束になって無秩序に進行すれば、施設の全般的な復元力が失われることもありうる。火山の大噴火に引き続き、降灰の必然的な影響のひとつとして、配電網や開閉装置がショート(フラッシュオーバー=爆発的な炎上)を起こし、その結果、反応炉と貯蔵槽内の使用済み燃料を冷却するために核施設が頼みの綱にしている外部電源の喪失(LOOP)を招きかねない――この結果として、川内の核反応炉2基とそれぞれの使用済燃料プールは、地震につづき、津波の到達の前に福島第一原子力発電所の反応炉がこうむったのと同じリスク状況に陥ることになるだろう53

53川内原発はこのLOOP状況において、全面的に緊急用ディーゼル発電機に頼ることになるだろうが、それなのに九州電力は、とりわけ(発電機の運転に必要な)エアフィルターのつまりを解除するための計画において、これらの発電機の適切な保守管理に備えていない――つまり、同社の計画では、26.5運転時間ごとにフィルターを交換することになっているが、米国NRAはコロンビア原発に対して2.3運転時間ごとのフィルター交換を求めている。これは、LOOP、その他の影響と重なれば、全電源喪失、および核反応炉と使用済み燃料の冷却機能喪失を招くだろう。
See, “Implications of Tephra (volcanic ash) fallout: On the operational safety of the Sendai nuclear power plant”, Large & Associates, Greenpeace Commissioned report, February 26th 2015

2015/2/2【プレスリリース】グリーンピース委託レポート『川内原発と火山灰のリスク』発表


NRAと九州電力は、基幹的な建屋、屋上、アクセス経路に堆積する火山灰を除去する方法について、信頼しうる計画を備えておらず、とりわけ800トン以上の放射線レベルが高い使用済み核燃料を収納する建屋の屋上の場合――九州電力は、使用済み燃料建屋の屋根の余裕、つまり火山灰層による過負荷に対する安全裕度が最小限であると認めており――屋根崩落のリスクが高くなる結果になっている。ここでもまた、核産業によるプレッシャーが、フクシマ後の安全規制の策定と適用の両面にわたる弱体化における決定的な要因になっている。


核技術者、ジョン・ラージ博士は、川内原発の火山ハザードとNRC審査の過程を分析しており、次のように結論づける――NRCの火山影響評価ガイドの初稿は、核施設運転員が確率および『想定外』状況に対応するリスク情報準拠手法を備えていることを求めており、川内原発について、⽕⼭影響評価ガイドに準拠した復元力を策定し、含んだうえで、上記の極端事象に対応するように物理的に改修するように求めていた。ところが、NRAガイドの最終版では、こうした要件がすべて脱落しており、したがって、九州電力が避けられない事態に対して常識である予防措置を備えていなくても許されることになった――その結果、川内原発の最終的な火山立地評価は脆弱なものになり、火山活動地帯における核施設立地評価に関する国際原子力機関の安全勧告から、かなりかけ離れたものになった」54


これが、フクシマ核事故の原因になった規制の落ち度から学んだはずの教訓を、新たに発足した規制機関、核産業、そして最終的には日本政府が無視していることを示す、さらにもうひとつの実例である。


連絡先:


ジャン・ヴァン・プタ――グリーンピース・ベルギー

Jan Vande Putte – Greenpeace Belgium - jan.vande.putte@greenpeace.org

ケンドラ・ウルリック――グリーンピース日本

Kendra Ulrich – Greenpeace Japan - kendra.ulrich@greenpeace.org

ショーン・バーニー――グリーンピース・ドイツ

Shaun Burnie – Greenpeace Germany - sburnie@greenpeace.org


*** 本稿の構成 ****






3.安全リスク解析の欠陥

ガザ紛争に関する国連調査委員会プレスレリース「イスラエルとパレスチナ武装集団の双方に戦争犯罪疑惑」

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国連ガザ調査委員会が認定したイスラエルとパレスチナ武装集団による2014年の戦争犯罪の信頼するに足りる疑惑


ジュネーブ【2015622日】2014年ガザ紛争に関する国連独立調査委員会は、イスラエルとパレスチナ人武装集団の双方が戦争犯罪を犯した可能性を示す相当量の情報を収集した。


「ガザにおける破壊状況と人的被害の規模は前例のないものであり、これからの世代にも影響をおよぼすでしょう」と、委員長、メアリー・マック=デイヴィス判事は本日の記者会見で語り、「またイスラエルでは、日常的な脅威にさらされるようになった地域の住民たちが今でも恐れを抱いています」と付け加えた。


2014年の戦闘のさい、ガザで使用された火力が甚大に膨れあがり、イスラエル軍の空爆が6,000回以上、戦車や大砲から発射された砲弾が約50,000発に達した。51日間の軍事作戦において、パレスチナ民間人の1,461名が殺害され、その3分の1が子どもたちだった。パレスチナ人武装集団は20147月から8月にかけて、4,881発のロケット弾と1,753発の迫撃砲弾をイスラエルに向けて発射し、民間人6名を殺害、少なくとも1,600人を負傷させた。


数百名のパレスチナ民間人、とりわけ女性と子どもたちが自宅で殺された。生存者らは、建物を数秒間のうちに塵芥と瓦礫の山に変えた空爆による破壊のようすについて生々しく証言した。726日のハン・ユニス攻撃のあと、縁者19人を殺されたアル・ナジャー地区の住民は、「わたしは…病院で目が覚め、その後、わたしの妹、母、わたしの子どもたちの全員が死んだと知りました。あの日、生き残った者も全員が死んだのです」と話した。


2014年夏、1棟の集合住宅に対する攻撃のさい、少なくとも142世帯が3人またはそれ以上の家族を失っており、死亡者の合計は742人に達していた。民間人に対する攻撃の悲惨な結果が明らかになったあとでさえ、イスラエルが空爆の実施要領を改めなかった事実によって、これは政府最上層レベルにおいて少なくとも黙認されている、広範におよぶ政策の一環ではないのか、という疑惑が浮かびあがる。


委員会は、イスラエルによる殺傷範囲の広い兵器の大規模な使用について危惧している。違法でないにしても、人口密集地で使えば、戦闘員と民間人を無差別に殺害する可能性が非常に高くなる。また、イスラエル国防軍が居住地域から離れろと住民に警告し、その地に残留している人間はすべて戦闘員であると自動的にみなすパターンが見受けられる。この戦法のために、民間人攻撃の可能性が高くなる。20147月中旬にはじまったガザに対するイスラエル軍の地上侵攻によって、数百人が殺害され、数千棟の家屋が破壊または損傷された。


救急受付センター職員らは、シュジャイヤの住民たちから切迫した救命依頼を受け、その間、背後で幼い子どもたちが泣き喚いているのが聞こえていたと語った。イスラエル国防軍が8月初旬、兵士1名が拿捕されたと信じ、大規模な軍事作戦を開始したラファで、「ほぼ10秒間ごとに爆発がありました」と証人が語った。「イスラエル兵1名の安全が危機に瀕すると、すべての規則は見向きもされなくなるようです」と、デイヴィス判事は評した。


戦闘はまた、イスラエルの民間人の暮らしに対しても甚大な苦難と混乱をもたらした。ガザの近くに住む証人たちは、居間の窓から爆撃を目撃して動転しながらも、サイレンが攻撃の切迫を警告すると、我先に子どもたちを連れて防空シェルターに駆けつけたと語った。イスラエルに対する何千発ものロケット弾や迫撃砲弾の無差別発射には、その地の民間人に恐怖を広める意図があったようである。さらにまた、イスラエル軍はこの期間に、同軍の兵士らを攻撃するために、ガザからイスラエルへと掘り進められた14本のトンネルを発見した。イスラエルの民間人はトンネルのことを考えると、いつ何時でも地下から跳びだしてくる武装集団に攻撃されるかもしれないと恐れ、心に傷を負った。


東エルサレムを含む西岸地区では、20146月から8月にかけて、パレスチナ人の27名が殺害され、3,020名が負傷した。この3か月間の死亡者数は2013年全体の合計数に等しい。委員会は、イスラエル治安部隊による群衆抑圧のために実弾使用が増えていると思われ、このために死亡または重傷の可能性が高められていると危惧している。


イスラエル軍部隊が、ガザと西岸の両地区で、犯したと申し立てられている違反行為に対して、委員会全体に不問の空気が優勢である。「イスラエルは説明責任を負うべき不届き者を抱えている嘆かわしい実績を捨てるべきであり、パレスチナ側の説明責任もまた、まったく不十分にしか果たされていない」と委員たちは発言した。


委員会は、ガザの海岸で2014716日、4人の子どもたちが殺害された事件に対する犯罪捜査を中断するとしたイスラエルの決定に困惑している。イスラエル当局は国際ジャーナリストらやパレスチナ人目撃者らに対する面接事情聴取を実施していないようであり、この捜査の徹底性に対する疑念が生じる。


当委員会は20149月に国連人権理事会によって設置され、昨年夏に実行された軍事作戦の状況における国際人道法および国際人権法に対する、すべての侵犯行為を調査することになっている。委員会は、メアリー・マックガワン=デイヴィス判事(米国)とドゥドゥ・ディエン博士(セネガル)で構成される。


委員会はイスラエルに対して、情報の提供とイスラエルおよびパレスチナ占領地への入域の許可を繰り返し要請したが、当局からの応答はなかった。しかしながら、委員会はスカイプ、テレビ電話通話、電話取材によって悲惨な本人証言を得ることができた。委員会はまた、二度にわたりヨルダンを訪問して、西岸地区から来た被災者らや証人たちに対する面接取材をおこなうとともに、イスラエルからジュネーブに来訪した被災者らや証人たちとも面談した。委員会は280回以上の守秘面接を実施し、約500点の提出文書を受領した。


デイヴィス判事(委員長)とディエン博士は月曜日(22日)、報告書の公開を発表し、当事者らと国際社会が採るべき数々の手段の概略を説明した。そのひとつとして、諸国はパレスチナ占領地に関する国際刑事裁判所の職務を積極的に支持するべきである。


「わたしたちは犠牲者たちの甚大な苦難とレジリエンス(復元力、立ち直る力)に深く心打たれました。わたしたちの報告が、暴力の循環を終わらせるために、ささやかながらも貢献することを願うのみです」と、委員たちは述べて締めくくった。


委員会は2015629日、ジュネーブで国連人権理事会に報告書を公式に提出する予定である。



Media Contacts:

Frances Harrison: +41 79 871 9824, mediacoigaza@ohchr.org

Rolando Gómez: +41 22 917 9711, rgomez@ohchr.org.

フォーリン・ポリシー・イン・フォーカス【診断と処方箋】 「アメリカの世紀」が世界を危機に追い詰めている

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 Foreign Policy In Focus

「アメリカの世紀」が世界を危機に追い詰めている。

今なにが起こっているのだろう? 


米国の対外政策は、危険であり非民主的、しかもリアルな地球規模の課題とまったくかみあっていない。絶え間ない戦争は避けられず、進路を変更できないのだろうか?


コン・ハリナン&レオン・ウォフシー 2015622

Conn Hallinan and Leon Wofsy, June 22, 2015


(Photo: Alex Alvisi / Flickr)


米国の外交政策には、なにか間違いがある。


希望の兆し――ひとつには、イランとの暫定的な核合意、そして遅れに遅れた対キューバ関係の雪解け――がほのかに見えるものの、わが国は世界のほとんどの地域で解決不能と思える紛争でがんじがらめになっている。その紛争とは、ロシアや中国といった核武装大国との緊張から、中東、南アジア、アフリカでの実戦行動まで、なんでもありである。


なぜなのか? 絶え間ない戦争と紛争が避けられなくなったのだろうか? あるいはわたしたちは、世界をありのままに見る能力――または意志――の欠如を反映する自己複製サイクルにはまりこんでいるのだろうか?


米国は世界との関係において歴史的な過渡期にさしかかっているのだが、このことは米国の外交政策に認知されていないし、反映されてもいない。わが国はいまだに、巨大な軍事力、帝国的同盟関係、優位性を自認する倫理の力によって、まるで「世界秩序」の条件を設定する権能を賦与されているかのようにふるまっている。


この錯覚が第二次世界大戦の終結に遡るとすれば、みずから宣下する「アメリカの世紀」のはじまりを知らしめたのは、冷戦の終結とソ連の崩壊だった。米国が冷戦で「勝利」し、いまや――世界唯一の超大国として――世界情勢に対して命令を下す権限または責任があるという概念が、一連の軍事的な冒険を招いたのである。この冒険は、ビル・クリントン大統領によるユーゴスラヴィア内戦への介入にはじまり、ジョージ・W・ブッシュによるアフガニスタンとイラクへの破滅的な侵略に引き継がれ、今でもイラク、リビア、イエメン、その彼方におけるオバマ政権独自の不始末に見ることができる。


ワシントンはいずれの場合でも、すこぶる複雑な問題の解決策として戦争を選び、対外政策と国内政策の両面における深刻な影響を無視してきた。それにしても、世界はこの衝動的な介入主義をかきたてる思い込みとはまったく別物である。


現在の危機を規定しているものは、この食い違いである。


新しい現実を認める


それでは、わたしたちの見通しに変革を迫る世界の状況とは、どんなものだろうか? いくつかの所見が念頭に浮かぶ。


第一に、わが国の中東紛争への没頭――そしてかなりの程度まで、東ヨーロッパのロシア、東アジアの中国との緊張――は、人類の未来を脅かす最も切迫した危機からわたしたちの注意を引き離している。気候変動と環境危機とは、ただちに対処しなければならない問題であり、前例のないレベルの国際共同行動が求められている。これは、核戦争の危険の再来にもあてはまる。


第二に、超大国の軍事介入主義は、紛争、テロ、そして人間の苦難を深刻化しただけである。世界の大半で混乱、暴力、悲惨を招いている根深い問題には、急場しのぎの――とりわけ武力による――解決策はない。


第三に、暴力に歯止めをかけ、最も急を要する問題を緩和する望みは国際協力にかかっているが、勢力圏をめぐる古くて悲惨な企みが諸大国のふるまいを左右している。同盟やNATOのような代理を通じたものを含め、すべての大陸における軍事的な利益に対する、わが国のあくなき追求は、わが国の認める利害に応じて、世界を「味方」と「敵」に分割する。このことは不可避的に攻撃的で帝国的な敵対心を掻きたて、21世紀における共通の利害を圧倒する。


第四に、米国は今でも経済大国ではあるが、経済的・政治的影響力が変転しており、米国が支配する世界金融構造にもはや統制されない国家的および地域的な中心が台頭している。ワシントン、ロンドン、ベルリンとは別に、オルタナティブな経済大国の中心が北京、ニューデリー、ケープタウン、ブラジリアに根付きつつある。BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)、上海協力機構、南米諸国連合、ラテン・アメリカ貿易ブロック、メルコスール(南米共同市場)など、独自の構造と同盟が勃興している。


わたしたちの崇高さ幻想が広い世界で引き起こした問題を超えて、長引く戦争と介入主義による甚大な国内的影響がある。わたしたちの社会的セーフティ・ネットがほころび、社会基盤が崩れているのに、わが国は軍事関連コストに年間1兆ドル以上の大枚を注ぎこんでいる。デモクラシーそのものが実質的に機能しなくなっているのだ。


(Photo: U.S. Army / Flickr)


はかない記憶と頑固な錯覚


だが、変転する状況と軍事的失敗を前にして、わが国はためらうことさえなく、政府はあたかも世界に支配権と決定権をおよぼす力を保持しているかのようにふるまっている。


この路線を設定した連中の責任は背後に消え去ってしまう。まさしく有力な大統領候補たちは、中東のメルトダウンの件に関して、ジョン・ボルトンやポウル・ウォルフォイッツといった――いまだに対外政策の難問の答えは軍事力にあると考えている――ネオコンサヴァティヴに助言をねだっている。わが国の指導者たちは、この運まかせの助言に従ったことがメルトダウンを引き起こした、そもそもの原因であったことを忘れているようだ。戦争がいまだに彼らをワクワクさせ、リスクや結末は嘲笑されている。


オバマ政権は継承した戦争の主だったものを終わらせようと、大した成果もなく努力したものの、わが国の政府は、パキスタン、イエメン、ソマリアで殺人ドローンを幅広く使用し、いわゆるイスラム国(ISIS)の宗教的狂信と極悪非道――それ自体が先般の米軍によるイラク侵攻の直接結果――に対峙するために、部隊を再投入した。米国政府は、ISISに対する戦いにおいてイランとシリアのような「敵」指定された勢力と共通の立場にあることを認めたがらず、サウジアラビアのような同盟諸国にこだわっているが、その指導者たちは宗教的狂信と内輪もめの残虐行為をあおっている。米国は別の場所でも、イスラエルによる西岸地区の占領拡大とガザ地区に対する、おぞましい攻撃の連発にもお構いなしに同国政府に絶大な支持を与えている。


イランやシリアのような場所における「戦争第一」政策は、ディック・チェイニー元副大統領や上院軍事委員会のジョン・マケイン委員長のようなネオコンサヴァティヴによる強力な後押しを受けている。オバマ政権はネオコンから距離を置こうとしてきたが、中国に対抗するため、アジアで米軍事力を構築することをめざす「アジア基軸」戦略など、軍事再配分を計画しては、緊張を高めている。オバマ政権はまた、ロシアに対する新冷戦の気運を醸成するうえで、他のNATO加盟諸国すらよりも果敢な姿勢をとっている。


わたしたちは肝心な点を見失っているようだ。「アメリカの世紀」のような代物はない。超大国が単独で国際秩序を押し付けることはできない。だが、幾世紀のことなど気にしないでおこう――わたしたちが、国ぐにを分割し、宿痾のような戦争の危険を醸成する連中よりも真剣に、わたしたちの共通の利害を受け止めることを学ばなければ、明日はないことが十分考えられる。


非例外主義


米国の対外政策の変革をめざす、どのような運動でも対処しなければならない強力なイデオロギー的幻想がある。すなわち、アメリカ文化は地球上のどの文化よりも優れているという神話である。この「アメリカ例外主義」の名で一般に通じる概念は、アメリカの政治(そして、医療、テクノロジー、教育、その他もろもろ)が他の国ぐにのそれよりもよいという堅い信念である。この信念の背後に、アメリカの流儀を世界に強要したいという福音主義の衝動が隠されている。


アメリカ人はたとえば、現実には、大学卒業者の数が第1位から第14位に落ちたときでも、わが国の教育制度は世界最高であると信じている。わが国は最高学府の学生層を国民のなかで最も重い負債を抱えた部門に陥れながら、国際教育評価順位で第17位に落ち込んでいるのである。経済協力開発機構によれば、平均的なアメリカ人は彼または彼女の教育のために世界の他の国ぐにの国民に比べて2倍のコストを支払っている。


医療も同じように鮮明な例になる。医療制度に関する世界保健機関の2000年ランキングで、米国は第37位にランク付けされていた。もっと最近の医療研究所報告2013年版では、米国は調査対象の先進17か国の最低にランクされていた。


「学校が必要な資金の全額を得て、海軍が航空母艦を購入するためにバザーを開かなければならないとき、その日こそは素晴らしい一日になるだろう」という古い反戦スローガンは、1960年代と同じように今日でも通用する。わが国は、企業助成金、富裕層減税、巨額の軍事予算を教育予算よりも優先している。その結果は、アメリカ人はもはや世界で最高の教育を受けた人びとから落ちこぼれているということだ。


しかし、「例外主義」神話に挑むとすれば、「非国民」とか「非米主義者」といったラベルを貼られる危険を招くことになり、このふたつは強力なイデオロギー的制裁であり、批判的であったり懐疑的であったりする声を黙らせる効き目がある。


アメリカ人が自国の文化やイデオロギーを「優等である」と考えているのは、独特の事実であるとはとてもいえない。だが、世界のどの他国も、その世界観を他者に押し付けることができる同等レベルの経済力や軍事力を保有していない。


米国はたとえば、コソボの独立を支持しただけではない。セルビアを爆撃して、事実上の受諾に追いこんだのである。タリバン、サダム・フセイン、ムアンマル・アル=カザフィを権力の座から除こうと米国が決定すると、まさに実行したのである。他のどの国も、そのような類いの軍隊を自国の国境から何千マイルも離れた領域に投入する能力を保有していない。


米国の現在の軍事費は、世界の軍事支出の45ないし50パーセント程度を占めている。米国は、コソボのキャンプ・ボンドスティール、沖縄諸島、ウェーク、ディエゴガルシア、グアムの周辺海域に展開する不沈空母群といった膨大に広がる軍事システムから「蓮の葉」と呼ばれる小規模な事前集積備蓄基地にいたるまで、数百か所の海外基地を保持している。物故した政治学者、チャルマーズ・ジョンソンは、米国が世界に800か所の基地を保有し、これは1895年の最盛期における大英帝国の保有数とほぼ同数であると見積もっていた。


米国は外交の矢筒にひそませた軍の矢に久しく頼ってきたのであり、アメリカ国民は第二次世界大戦の終結からこのかた、ほぼ絶え間なく戦時を生きてきた。この戦争の一部は、朝鮮、ヴェトナム、ラオス、カンボジア、クウェート、アフガニスタン、イラク(一次と二次)戦争という大仕事だった。一部は、パナマ、グレナダといった「即撃・掌握」戦争だった。その他は、特殊部隊、武装ドローン、地元の代理人が担う「隠密戦」だった。「戦争」という用語を組織化された暴力の適用と定義するなら、米国は1945年以降に80回近くの戦争を遂行してきたことになる。


(Photo: Dennis Dimick / Flickr)


銃後の守り


古い表現にあるように、帝国の硬貨は値が張る。


ハーヴァード大学ケネディ政治学大学院によれば、アフガニスタン、イラク両戦争の最終処理費用は――退役兵の長期医療プログラム込みで――米国の納税者に6兆ドル程度の負担を強いることになる。それに加えて、米国は年ごとに1兆ドル以上を国防関連項目に使っている。5000億ドルほどの「公式」国防予算には、核兵器、退役軍人給付、つまり退役年金、CIAおよび国土安全保障の予算が算入されていないし、そのうえ、わたしたちはアフガン=イラク戦争による負債の利子として年に何十億ドルも支払っている。米国は2013年までに3160億ドルの利子をすでに支払っている。


一連の優先事項に付随する国内の損害も呆然とする規模である。


わたしたちは、医療、医療費補助、保険社会福祉、教育、住宅・都市開発の合算費用よりも多額の「公式」軍事予算を使っている。911からこのかた、わたしたちは国内プログラム全体のために1時間あたり6200万ドルを使ってきたが、それに対して、「安全保障」のためには1時間あたり7000万ドルを使っている。


軍事支出が劣化しつつある社会プログラム向けの資金を矮小化するので、経済的不平等が拡大する。貧困層と勤労大衆はどんどん置き去りにされる。そして、ファーガソンで脚光を浴び、全国規模に反響し、人種差別――不平等な経済的・社会的分裂であり、黒人とラテン系の若年層に対する制度的な虐待――がいかに根深いか、おぞましくも思い知らせる宿痾のような問題がわが国本土を悩ませつづけている。


絶え間のない戦争状態はわが国のデモクラシーを深く傷つけ、監視・治安国家のレベルを大方の独裁者らが羨むだろう段階に高めた。拷問に関する上院情報特別委員会報告は、そのあらかたが機密指定のままだが、これまでに考案されたもののなかで最も大掛かりなビッグ・ブラザー諜報システムを運営する、説明責任を負わない秘密組織に対して国民が要請されている信頼を台無しにしている。


爆弾とビジネス


カルヴィン・クーリッジ大統領は、「アメリカのビジネスはビジネスである」と述べたと伝えられている。ことさらに意外でもなく、米国企業の利益はアメリカ対外政策の主役である。


兵器製造多国籍企業の上位10社のうち、8社がアメリカ籍である。兵器産業は連邦議会と州議会の議員たちに対するロビー活動に数千万ドルの資金を使っており、業界の製品が戦場で必ずしも役に立たない場合でも、効率と正当性の名分を守っている。たとえば、F35戦闘爆撃機――米国史上空前に高価な兵器システム――は、15000億ドルの費用がかかっていながら、役に立たない。予算は超過し、飛ばすと危険であり、欠陥だらけである。それなのに、わたしたちの喉にこの傷物を押し込んだ有力企業に対して、あえて挑もうとする議員はほとんどいない。


企業利益は、米国の長期戦略の利害と目標に織り込まれている。二者が結託して、エネルギー供給を支配し、戦略的な関所に陣取って、石油とガスの通過を指令し、マーケットを確保している。


この目標はおおむね通常の外交と経済的圧力で達成できるが、米国は常に軍事力を行使する権利を留保している。1979年の「カーター・ドクトリン」――ラテン・アメリカにおけるアメリカの利害に関する1823年のモンロー・ドクトリンに酷似している文書――は、中東に関して、この戦略を具体的に語っている。すなわち、「ペルシア湾岸地域に対する支配権確保をねらう、いかなる外部勢力の企ても、米国の死活的利害関係に対する攻撃とみなし、かかる攻撃は、軍事力を含め、あらゆる必要な手段によって撃退する」。


これは東アジアの場合にもあてはまっている。確かに米国は中国との平和的な経済競争に勤しんでいる。だが、風雲急を告げるとなれば、第三、第五、第七艦隊が、ワシントンとその同盟諸国――日本、フィリピン、韓国、オーストラリア――の利害関係を援護するだろう。


米国の対外政策の路線を変える運動は、国際緊張を緩和するために是非とも必要であるが、それだけではない。わが国が戦争と兵器に支出している巨万の国富を、本国で拡大している不平等と社会危機に対する軽減策に振り向けることが否応なく重要である。


市場獲得競争と資本蓄積が現代社会の特色であるかぎり、諸国家は影響圏を奪い合い、利害対立が国際関係の基本的な形になるだろう。現実であれ想像であれ、攻撃に対する国粋主義的な反応――そして、軍事手段に訴える衝動――は、ある程度まですべての主だった国民国家の特色である。それでも、わが国をはじめ、一部の国の政府が寡頭支配勢力に従属するようになればなるほど、危機は増大する。


(Photo: Caelie_Frampton/Flickr)


共通利害を見つける


しかしながら、これまで語ってきたものごとだけが、未来を形づくるのではない。

貪欲と搾取の資本主義システムの解体または変革がまだ実現していないにしても、方向の大幅な変更が阻止されることは、必然でもなんでもない。変革の可能性、とりわけ米国の対外政策における変革は、わが国および海外の社会運動が、(1)「アメリカの世紀」例外主義に内在する習慣的な怠慢、巨額のコスト、危険、(2)気候変動に対処する国際運動の緊急性という否定できない現実に対応する、そのありかたにかかっている。


同様に、貧困によって深刻化する健康問題と天災、メシア主義的な暴力の台頭、そしてなによりも戦争への転落に対処する必要がある。主要核保有諸国間だけでなく、地域大国間の衝突の危険も考えなければならない。たとえば、パキスタンとインドが互いに核で応酬すれば、世界全体が影響をこうむる。


人類の未来という賭博を活力にする勢力の私欲を過小評価しなければ、歴史の経験と現在の現実が、平和と生存における強力な共通利害を高揚することになる。路線を変更する必要は、イデオロギー対立の一方の側だけが認めることができるようなものではない。それに、その認識は、国、民族、あるいは信仰のアイデンティティに左右されるものでもない。その認識は、むしろ、わたしたちの周りであらゆるものが破綻すれば、前途に待ち受ける甚大な代償に気づくことに求められるのである。


先ほど実施された米国の中間選挙のあと、政治の見通しは確かに荒涼としている。だが、経験によれば、選挙はそれ自体が重要であっても、政策に関して重要な変化が招来する時期と様相を占うための指標には必ずしもならない。公民権および社会的平等の問題に関して、献身的で粘り強い少数派運動が、体制派政治勢力が反抗できない形で世論を変えるのに貢献したのである。


たとえば、ヴェトナム戦争は、民主党政権と共和党政権の頑固な姿勢にもかかわらず、戦場が膠着状態に陥り、国際的にも国内的にも反対運動が高揚して、否定できなくなったとき、終結にこぎつけたのである。社会の基本的性格が変わらなくても、意義のある変化は実現可能である。大衆的な抵抗運動と植民地主義に対する拒絶反応が、大英帝国をはじめ、宗主諸国を動かして、第二次世界大戦後の新たな現実に適応させたのである。米国でマッカーシズムは最終的に打倒された。ニクソン大統領は辞職に追いこまれた。地雷とクラスター爆弾の使用は、発足時の運動が「ドン・キホーテ」と揶揄された活動家たちの小集団による反対運動のおかげで、大幅に規制されるようになった。


わが国には、わたしたちが乗っている路線の愚かしさと危険を看破した、多様で、育ちつつある政治潮流がある。大勢の共和党員、民主党員、リバタリアン――そして、国民の多く――は、世界中の戦争と軍事介入に対して「たくさんだ」と声を上げ、国ぐにを「味方か敵か」に区分けすることを基盤にする対外政策のバカらしさを言い立てはじめている。

これは、反戦心情についてお花畑になっているわけではなく、あるいは、国民がいともたやすく武力行使支持にまわると言いたいのではない。2024年はじめの時点で、アメリカ国民の約57パーセントが、「軍事力への過度の依存はテロ拡散の原因になる憎悪を増進する」の項目にイエスと答えていた。37パーセントだけが軍事力だけが選択肢であると信じていた。だが、イスラム国をめぐる集団ヒステリーが発症すると、これらの数値が変わり、きれいに横並びになった。47パーセントが軍事力行使を支持し、46パーセントがそれに反対していた。


新たな危機が勃発するごとに、国民を誤った方向に導き、軍事介入に同意するように脅す連中に対抗する必要があるだろう。だが、目下のISISにまつわるパニック状態にもかかわらず、答えとしての戦争に対する幻滅は、おそらくアメリカ国内でも世界的にもかつてないほど膨れあがっていることだろう。この心情は、永久戦争路線からの転換、ある種の穏健さ、常識的な現実主義に向かう傾向への変化を米国の対外政策に促すほどに強いと判明するかもしれない。


予期せぬものの余地を作る


新しい方法論が必要であるとして、アメリカの対外政策をどのように変更できるだろうか?


なによりも先に、軍事力行使に替えて、交渉、外交、国際協力を選ぶ米国の対外政策の推進に関する現実的な論争が必要である。


しかしながら、次の大統領選挙が近づいているいま、候補者たちから米国対外政策に異議を唱える大きな声はまだ聞こえてこない。対外政策が危機にあり、さらなる永続的な軍国主義と戦争にのめりこもうとしているいま、恐怖といかがわしい政治的計算のため、最も進歩的な政治家でさえ、あえて異議を唱えることを手控えている。


これは左派だけの心配事ではない。わたしたちが乗っている路線のくだらなさを感じている――右派、左派の、またそのどちらでもない――アメリカ国民は大勢いる。このような声は代弁されなければならず、そうでなければ、選挙手続きはわたしたちが先ほど経験したもの以上に茶番になってしまうだろう。


どのような発議が根付くか予測することはできないが、最近の気候変動に関する米中合意は、必要性が大きな障害に克服することを示唆している。限定的な二国間協定が必要不可欠な国際気候条約の代わりにならないにしても、この合意は重要な前向きの一歩である。それにまた、シリアから化学兵器を除去した米ロの共同行動に仄かな希望が垣間見え、米国のタカ派とイスラエル政府が強硬に反対していても、イランとの交渉が継続している。より最近では、オバマが、対キューバ外交関係の――久しく遅れていた――回復を図る大胆な動きに出ている。政治的な運不運は転変するにしても、必要があり、機会を作り出す強い圧力があれば、予想しないことが起こりうる。


わたしたちは、悪化する国際関係の危機に対する既製の解決策を持っていると主張しない。わたしたちには、見逃したり過小評価したりしたことがどっさりあるとわかっている。だが、米国の対外政策には国内的および世界的な影響力があること、それがまた、米国民自身を含め、世界民衆の多数派の利益を考慮して実行されているのでないことに、読者のみなさんにご同感なさるなら、この会話に参加なさるようにお願いしたい。


民衆の対外政策に影響をおよぼす能力を拡大するとすれば、デモクラシーを防衛し、反対意見と代案を奨励する必要がある。世界と米国民自身に対する脅しは非常に強大であるので、共通の立場を見つけることが、いかなる特定の利害よりも大事である。わたしたちがすべての点で互いに一致しているわけではないこともわかっており、わたしたちはまた、そうあるべきだと信じている。未来への経路は数多くある。対外政策の変革をめぐる連合は、ワン・パターンの政治行動に同調すべしと民衆に説いているなら、いかなるものも成功しないだろう。


では、路線の変革を求める呼びかけを、どのように政治的に実行可能ななにかに翻訳し、どのようにわたしたちは権力の問題を考えたら、よいのだろうか?


意味のある政策変革を達成する力は、平和活動家の持続力から民衆の政治的影響力まで幅広くある。ある環境において、権力構造そのものの意味ある変革の達成が――必要であると同時に――可能になる。


ギリシャが念頭に浮かぶ。ギリシャの左翼諸派が合同して、急進左派連合を結成し、この政党が緊縮政策を終わらせる綱領を掲げ、首尾よく政権与党に選出された。スペインの反緊縮政党、ポデモス――目下、同国の第二党――は2011年の大衆デモをきっかけに結成され、下からの草の根を基盤に組織化された。わたしたちは次から次へと組織論を論じないが、両国の経験は、変革を醸成する経路が数多くあることを実証している。


進歩派と左派は確かに権力の問題に取り組んでいる。だが、問題における前進、とりわけ戦争と平和および気候変動の問題における前進は、たとえ望ましくとも、最初に社会の諸問題に対する全般的な解決策を達成するかどうかにかかっていると考えるべきではない。


(Photo: Alex Abian / Flickr)


提案をいくつか


わたしたちが「悪事に対する連合戦線」になるといけないので、いくつかの要になる問題に注目することが必須であると感じる。悪事は数多くあるが、いくつかのものは他のものより悪い。そうしたものをじっくり検討することも、もちろん、政治に関与する営みの一環である。


これが容易でないことはわかっている。それでもわたしたちは、この課題に対処しないことには、世界が大惨事に向かって突き進むと確信している。わたしたちは、連帯できるだけの共通の計画的な主導力を見つけることができるだろうか?


201411月にマサチューセッツで催された会議とワークショップのあとに公表された「全員のための対外政策」に、価値ある手法がいくつか提示されている。わたしたちは、だれもがこの文書を学ぶ時間を割くべきだと考えている。下記にわたしたち自身のアイデアをいくつか提示したい――


1)わたしたちは選挙戦に対する企業資金の洪水のような投入を阻止しなければならず、投票法規の操作による組織的な有権者の公民権剥奪をやめさせなければならない。


国内問題からはじめるのは奇妙に思えるかもしれないが、ますます裕福な篤志家の支配下に落ちてゆく政治制度に対決することなしに、アメリカの対外政策について、どのような変革にも着手することができない。寡頭支配と経済的不平等の拡大は、アメリカだけの問題ではなく、世界全体の問題なのだ。オックスファムによれば、2016年までに世界の最富裕層の1パーセントが世界の富の総額の50パーセントを支配するようになる。一連の世論調査が、この経済格差の拡大は民衆に納得できるものでないことを示している。


2)年間1兆ドル以上の札束を燃やし尽くし、国際緊張と戦争の拡大で利益を得る軍事・産業・諜報複合体の抑制に着手することは必須項目である。


3)バラク・オバマ大統領は核兵器の廃絶を誓約して就任した。彼は誓約を実行すべきである。


ホワイト・ハウスはそれどころか、わが国の核兵器装備を現代化するための支出3520億ドルを認可しており、基幹施設の維持費を計算に入れると、この金額はやがて1兆ドルの高みに達するかもしれない。核戦争の可能性は抽象概念ではない。ヨーロッパでは、核武装NATO軍は核武装ロシア軍を相手に角突き合っている。中国と米国の緊張は、この地域における現在の米軍戦略――いわゆる「空海一体戦」計画――と相まって、核の相互攻撃に発展しかねない。パキスタンとインドの指導層は、南アジア二国間の核戦争の可能性について、厄介なことに無頓着である。また、イランに対するイスラエルの核攻撃の可能性も見くびるわけにはいかない。要するに、今日の世界で、核戦争は深刻な可能性として現存している。


一案として、非核地帯キャンペーンがあり、これは――個別の都市の発案による非核都市宣言から、ラテン・アメリカを網羅するトラテロルコ条約(ラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止条約)、南太平洋のラロトンガ条約、アフリカのペリンダバ条約まで――数多くある。中東非核地帯が成立すれば、この地域の政治がどう変わるか、想像してみるがよい。


わたしたちはまた、核兵器の廃絶と完全な核軍備削減を定める核兵器拡散防止条約第6*の履行を要求するマーシャル諸島の運動を支持すべきである。もし諸大国が全面的な核軍縮に向かう真摯な一歩を踏み出せば、核兵器を保有しながら非加盟である諸国――北朝鮮、イスラエル、パキスタン、インド――が先例に習わないわけにはいかなくなる。しかしながら、肝心なことは、「全面核軍縮」であり、外交手段としての戦争を放棄する誓約である。

* [訳注]核兵器の不拡散に関する条約
6条:各締約国は、核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する。


4)いかなる対外政策を変革する運動も、最終的にパレスチナ・イスラエル紛争に直面するはずであり、これはアメリカ中央軍のジェイムズ・マティス元司令官のことばを借りれば、「中東で鍋を煮えたてつづけている並外れた炎」である。米国とそのNATO同盟諸国は、クリミアを併合したロシアに対して早急に制裁を課したが、イスラエルによるパレスチナの土地の長引く占領と併合に関して、文字通りなにもしていない。


5)対外政策の手段として民衆を飢えさせる――キューバ、ガザ、イランが念頭に浮かぶ――軍事封鎖を終わらせ、放棄すれば、間違いなく国際政治気候をよい方に変えるだろう。


6)「人道介入」はあまりにも多くの場合、大国が意に添わない政府を転覆させるための口実にすぎないのであり、わが国のこの嗜好を捨ててしまおう。


フィリピン国会におけるアクバヤン市民行動党の元議員であり、“Dilemmas of Domination: The Unmasking of the American Empire”[『支配のジレンマ――アメリカ帝国の仮面を剥ぐ』]の著者、ウォールデン·ベロが書くように、「人道介入は、将来の国家主権原則の侵害を正当化する危険な前例を残す。コソボ紛争におけるNATOの介入という歴史記録がアフガニスタン侵略の正当化の役に立ち、これら二つの介入の正当化が、つづけてイラク侵略とリビアにおけるNATOの戦争を正当化するのに採用されたことから、このように結論するしかない」。


7)気候変動は実存的な問題であり、戦争と平和と同じほどに対外政策の課題である。これをもはや無視できない。


米国はこれまで、温室効果ガス排出の抑制に向けて赤子のような一歩を踏み出したにすぎないが、世論調査によれば、米国民の圧倒的多数がこの前線における行動を欲している。これはまた、企業資本主義とその連邦議会議事堂にいる支持者らの略奪者性格を暴露する問題である。前述したように、エネルギー供給の支配と石油・ガス複合企業体の利益を保証することは、アメリカ対外政策の最重点項目なのだ。


ナオミ・クラインが著書“This Changes Everything: Capitalism vs. the Climate”[『これがすべてを変える――資本主義vs気候』]に記したように、気候運動は「代替案の政策提言をまとめるだけでなく、生態系危機の核心にある世界観に対抗するオルタナティブな世界観を統合する。これは、ハイパー個人主義でなく、むしろ相互依存関係、優越でなく、むしろ互恵関係、序列制度でなく、むしろ協力関係に根ざした世界観なのだ」。


(350.org / Flickr)


国際組織と地域組織

最後に、国際組織と地域組織を強化しなければならない。主流メディアのプロパガンダは長年にわたり国際連合の非効率性を嘆いてきたが、その一方で、ワシントンは――特に連邦議会は――組織的に国連組織を弱体化しており、それを世論の見当違いに委ねようとしてきたのである。


現在の国連の構造は非民主的である。第二次世界大戦から出現した5「大国」――米国、英国、フランス、中国、ロシア――が拒否権行使を通じて安全保障理事会に君臨している。地球の諸大陸のうちの2大陸、アフリカとラテン・アメリカは理事会に常任理事国の席を持っていない。


真に民主的な組織であれば、意思決定機関として、大きさと人口に応じた補正を施したうえで総会を使うだろう。武力行使のような重大な決定は、圧倒的多数の賛成国を要するようにしてもよいだろう。


同時に、アフリカ連合、南米諸国連合、ラテン・アメリカ=カリブ諸国共同体、上海協力機構、アラブ連盟など、地域組織もやはり強化しなければならない。アフリカ連合はカダフィ体制と交渉をはじめる準備をしていたが、国連安保理に聴く耳があったなら、現在のリビア崩壊は避けられたかもしれない。さらにまた、中央アフリカやマリとニジェールの国土への戦争の拡大を防げたかもしれない。


「アメリカ例外主義」の傲慢から離れ、米国の政策の劇的な転換をめざして働くことは、米国の大した重要性を格下げすることにはならない。わが国の軍事力の悪用による悲劇的な結果と並行して、またそれとは相反して、世界に対するアメリカ国民の貢献は莫大であり、多面的である。当代の主要な課題のどれひとつとして、アメリカが世界の諸国政府の大多数と諸国民と協力して行動しなければ、首尾よく対処できるものはない。


万国の民衆を、統治、政治、文化、信仰の違いを超えて結びつける共通利害は確かにある。このような共通利害は、貪欲、紛争、戦争、究極的には破局を煽る組織的圧力を克服するほど強力になるのだろうか? 否定的回答を裏付ける歴史はどっさりあり、ドグマにも事欠かない。だが、切迫した必要性と変転する現実は、完全からほど遠いとしても、よりよい世界に結実する肯定的な効果を生むかもしれない。


今こそは変革のとき、健全な世界に向けた希望を育む人たちの全員が最善の努力そのものを尽くすときである。


【著者】

コン・ハリナンConn Hallinanはジャーナリストであり、フォーリン・ポリシー・イン・フォーカスのコラムニスト。彼の記事はDispatches From the Edgeにオンライン掲載されている。レオン・ウォフシーLeon Wofsyは生物学の元教授であり、長年にわたる政治活動家。彼の時事問題評論はLeon’s OpEdにオンライン掲載されている。


【謝辞】

著者らは、フォーリン・ポリシー・イン・フォーカスのご同輩諸氏、そしてわたしたちと意見交換をおこない、価値ある提案をいただいた多数のみなさんに感謝を申しあげたい。わたしたちはまた、非常に有益な編集補助を務めてくださったスーザン・ワトラスにも感謝したい。


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Foreign Policy In Focus - A project of the Institute for Policy Studies


グリーンピース「IAEA報告はフクシマ惨事の規模と結果を正しく反映していない」

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Greenpeace International





機密扱いのIAEAフクシマ事故報告をグリーンピースが公開


ブログ記事投稿:ジャスティン・マッキーティング Justin McKeating 201561


国際原子力機関の報告は、フクシマ惨事の規模と結果を正しく反映していない。



国際原子力機関の理事会は68日に会合を開き、その機密扱いの福島第一事故報告概要について議論する。報告はそれ自体を「2011311日に勃発した日本の福島第一原子力発電所における事故の原因と結果に関するアセスメント」と表現している。

グリーンピースは報告の1部を入手し、先週のうちにそれを公開した。わたしたちはまた、報告に対する第一次分析を実施したが、その知見は芳しいものではない。


天野之弥IAEA事務局長は、その報告が「事故の原因と結果、ならびに教訓に対する、事実に準拠し、偏りのない、権威ある評価」であるという。

ところが、当方の専門家たちは、その報告が、不正確だったり、不確実だったりする箇所だらけであり、いくつか非常に重要な事柄に言及していないことに気づいた。わたしたちは当方の知見を天野氏に書き送った。


以下に、例をいくつか列挙してみよう――


  • IAEAは、フクシマ惨事勃発直後の日々に、放射線モニタリングが適切に機能
    していなかったと認めている。

  • このことによる不確実性にもかかわらず、報告は大勢の事故被災者の健康リスクを軽視している。

  • これは、福島の住民が被曝した放射能レベルの見積もりが信用するに足りないことを意味している。

  • 日本の新しい安全規制に関するIAEAの分析は、よく言って皮相的であり、IAEA報告書は日本の核産業が世界最高水準の核安全規制にもとづいて操業している証拠をなんら示していない。

  • 現実として、日本の核規制には重大な不備があり、地震、その他の核施設の安全にかかわる脅威が無視されたり、過小評価されたりしている。

  • 科学研究が地域の動物相に対する測定可能な影響に関する知見を得ているにもかかわらず、報告は動物に対する事故の環境的影響を否定している。

  • 報告は、いまだに事故の原因にまとわりついている不確実性を認めていない。メルトダウンした反応炉の内部にある基幹システムの多くはまだ点検されていない。


以上は、当方の初回知見の一部にすぎない。これからもっと多く見つかるだろう。


You can read our full analysis of the report here. グリーンピース「福島第一原子力発電所事故に関するIAEA報告概要:予備的な分析」日本語訳稿は次の4部構成:「グリーンピースが読み解くIAEAフクシマ報告」はじめに1.放射線と健康2.環境への影響3.安全リスク解析の欠陥The five part IAEA report is here: part one, part two, part three, part four, part five.


つまり、わたしたちは、チェルノブイリ核惨事以後に見たのと同じように、フクシマが健康と環境におよぼしている影響を極小化し、核安全規制が効果的になったなど、教訓を強調する言い草を繰り出すIAEAの姿を見ているのである。

要するに、IAEAはフクシマ惨事に暮らしを破壊された人びとや今後の核事故で被災するかもしれない人びとを守るのではなく、核産業を擁護するために動いている。


これは別に驚くべきことではなく、IAEAの中心的な役割は原子力の世界的な拡大路線を推進することである。日本の商業用核反応炉のすべて――総計43基――が停止したままであるという事実がIAEAの任務に直にのしかかる課題なのだ。これが、IAEA報告の行間に読み取らなければならない文脈である。


フクシマの惨事は4年後のいまも進展中であり、何十年も対処しなければならない。大規模な被害を一掃する仕事をできるだけ効率的にやりとげ、今後の事故をできるだけ回避することを期するなら、IAEAはみずからの運営方法を変革できることを実証しなければならず、これは喫緊の課題である。


現状のIAEAは、核産業の利益だけ、また原子力の失敗が課した究極の代償を払わされた人びとを犠牲にする利益追求だけに奉仕している。


グリーンピースは天野氏とIAEAに対して、報告の知見に関する考察を中断するように呼びかけている。日本国民の意見、それに独立科学者たちの見解を考慮する、オープンで透明な段取りを決めなければならない。わたちたちは、当方の深刻な懸念について議論するために、いつでもIAEAの代表のみなさんに会える用意ができている。


ブログ記事投稿:ジャスティン・マッキーティング Justin McKeating


ジャスティン・マッキーティングは2008年から核産業のメルトダウンに関するブログ記事をグリーンピース・インターナショナルのサイトに寄稿。英国ブライトンに在住。
All blogposts by Justin McKeating 


グリーンピースEU「ヨーロッパがフクシマの教訓を学び損ねている」と警告

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Greenpeace EU Unit
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グリーンピースEU、ヨーロッパがフクシマの教訓を学び損ねていると警告する

核規制基幹と欧州委員会はストレス・テストを強化しなければならない


グリーンピースEUプレスリリース 2016629


【ブリュッセル】グリーンピースが本日、新たに公開した報告書[1]は、ヨーロッパの規制機関がフクシマの破局的事故の死活的に重要な教訓にもとづいた行動をしておらず、ヨーロッパ諸国民を核事故のリスクに晒していると伝えた。報告書は、半年ごと恒例開催の欧州原子力安全規制部会(ENSREG)会議がブリュッセルでおこなわれるのに合わせて公表された。

スロヴァキアのモホフチェ原子力発電所
グリーンピースの核エネルギー専門家、ヤン・ハヴァーカムプは次のように述べた――「ヨーロッパはフクシマから死活的に重要な教訓をいくつか学びとることができておらず、お粗末にも同様な事故に対処する準備ができていません。わたしたちは欧州委員会と規制当局に対して、ヨーロッパの原発事業者にこのように深刻な安全性にかかわる懸念に必ず対処させるように求めます」。

報告書は、20113月に日本で勃発したフクシマ核惨事を受けて策定された一連の核「ストレス・テスト」にもとづく各国の行動計画を分析している。その結果、ヨーロッパの数か国において、地震、洪水、水素爆発のさいに命運を左右する防護策が備わっておらず、事故のさいに放射能が環境に放出されるのを防ぐ適正な圧力安全弁が設置されていないことが判明した。フクシマ核反応炉にはそのような安全弁が設置されておらず、運転員らは、圧力の過大上昇と爆発のリスクに賭けるか、あるいは放射能を放出して、環境と住民を汚染するかという二者択一ジレンマを押し付けられた。


欧州委員会はエネルギー同盟に関する2月の広報[3]で、EUは、安全性、保安性、廃棄物管理、核不拡散に関して最高レベルの基準を駆使して、世界で最も安全な原子力発電所を保有すべきであると述べていた。


欧州原子力安全規制部会は欧州理事会と欧州委員会に委任されて、ストレス・テストを実施し、独自に各国行動計画の相互査読報告書を提出することを期待されていた。


問い合わせ先:

Jan Haverkamp, expert consultant on nuclear energy and energy policy, Greenpeace Central and Eastern Europe: jan.haverkamp@greenpeace.org, +48 534 236 502


Roger Spautz, climate and energy campaigner, Greenpeace Luxembourg:roger.spautz@greenpeace.org, +352 621 233 361


Greenpeace EU press desk: +32 (0)2 274 1911, pressdesk.eu@greenpeace.org


脚注:



[2] Greenpeace assessments of European nuclear stress tests:
Nuclear stress tests – flaws, blind spots and complacency, June 2012, Greenpeace EU Unit. Updated review of EU nuclear stress-tests, April 2013, Greenpeace EU Unit.


[3] Communication from the Commission to the European Parliament, the Council, the European Economic and Social Committee, the Committee of the Regions and the European Investment Bank, A Framework Strategy for a Resilient Energy Union with a Forward-Looking Climate Change Policy, Brussels (2015), COM(2015) 80 final.


For breaking news and comment on EU affairs: 


グリーンピースは、環境の保護と保全、平和の促進を図るために、態度と行動の変革をめざして行動する世界規模の独立キャンペーンNGOです。グリーンピースは、諸国政府、EU、企業、政党からの寄付を受け取っていません。


Categories nuclear Tags nuclear safety


【グリーンピース関連記事】




グリーンピースが読み解くIAEAフクシマ報告



国際コホート研究「放射線管理労働者の被曝と白血病・リンパ腫による死亡リスク」(概要・序論)

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THE LANCT Haematology(ランセット血液学)

放射線管理下の労働者における電離放射線と白血病およびリンパ腫による死亡リスク:国際コホート研究


オンライン公開日:2015621


無料公開 Open Access

Cancer Research UK(英国癌研究)助成資金により無料公開

Audio/Video Download File (6.05 MB)


概要


背景


職業、環境、医療診断の事情による特有の反復的または長期的な低線量放射線被曝による白血病とリンパ種のリスクについて、不明なことが多い。われわれは、フランス、英国、米国で雇用された放射線管理下の成人における、長期低線量放射線被曝と白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫による死亡率の関連を数値化した。


方法


われわれは、原子力委員会、アレヴァ核サイクル、フランス電力会社、米国エネルギー省、国防総省に少なくとも1年以上は雇用されていた放射線管理下の労働者、ならびに英国の全国放射線労働者登録に掲載された核産業被雇用者308,297人のコホートを構築した。コホート追跡期間は822万人年に達した。われわれはポアソン回帰を用いて、赤色骨髄が吸収した線量と白血病およびリンパ腫による死亡率の関連を数値化した。


知見


線量の増分は非常に低い線量率だった(1年あたり平均1.1 mGy、標準偏差=2.6)。(慢性リンパ性白血病を除く)白血病による死亡率の過剰相対リスクは、Gyあたり2.9690%信頼区画=1.175.21;遅滞期間=2年)であり、放射線量と慢性骨髄性白血病の関連が最も悪質だった(過剰相対リスク=Gyあたり10.4590%信頼区画=4.4819.65)。


解釈


本研究は、長期低線量放射線被曝と白血病の明白な関連を示す有力な証拠を提示している。


研究費拠出


疾病管理・予防センター[米国厚生省]、日本国厚生労働省、放射線防護原子力安全研究所[フランス]、アレヴァ、フランス電力会社、アメリカ国立労働安全衛生研究所、米国エネルギー省、米国保健社会福祉省、ノース・カロライナ大学、イングランド公衆衛生サービス。


序論


放射線治療の場合を除いて、高線量の電離放射線被曝は稀であるが、反復的または長期的な低線量被曝は、これまでの25年間、ますますありふれたことになっている1。放射線被曝の職場および環境における線源は重要である。しかしながら、この傾向に最も大きく寄与しているものは、医療放射線被曝である。1982年の米国において、医療被曝による電離放射線の平均年間線量は1人あたり0.5 mGyだった。それが2006年までに3.0 mGyに増大している2。他の高所得諸国においても、同じ傾向が認められる。英国で同じ期間内に放射線が関与する診断法の使用回数が2倍以上に増え3、オーストラリアでは3倍以上になっている4。電離放射線は発癌源であるので5、その医療行為における使用は、患者の被曝にともなうリスクとのバランスを考慮したものでなければならない6


電離放射線被曝による癌のリスクを見積もるための基本的な根拠は19458月にヒロシマとナガサキに投下された原子爆弾による日本人被爆者に対する疫学研究である7。原爆投下から数年以内に、被爆者における白血病の過剰症例の証拠が認められ、それは骨髄性の亜型が圧倒的に多かった8, 9, 10, 11, 12 。こうした知見が、電離放射線は白血病を起こすことが確定されるのに貢献した13。しかしながら、この証拠の大部分は急性高線量被曝に関連していた。反復的または長期的な低線量被曝にともなうリスクは、公衆衛生実務との関連がもっと大きい。


この国際核労働者研究(INWORKS)は、反復的または断続的な低線量放射線被曝から人びとを防護するための科学的な根拠を強化するために実施された。個人線量計により放射線外部被曝を管理されたフランス14、英国15、米国16の労働者を対象にしており、彼らは被曝後に最長60年間にわたり追跡された。われわれはここに、INWORKS参加者における白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫による死亡率に関するデータを報告する。


研究の背景


本研究以前の証拠


電離放射線は白血病を起こす。放射線防護基準の一次的な定量的根拠は、高線量の電離放射線に急性被曝した集団に対する研究によってもたらされた。核労働者に対する先行研究は白血病の放射線発症性を対象としていたが、職場環境における反復的な放射線被曝によるリスクの規模について、疑問が残っている。


本研究の付加価値


われわれは、外部からの電離放射線による蓄積的・反復的な低線量被曝と(慢性リンパ性白血病を除く)白血病による被曝後の死亡との線量・反応正比例関係を報告する。単位線量あたりのリスク係数は、より高い放射線量および線量率で被曝した他の集団に対する解析によって判明した係数と一致していた。


入手可能なすべての証拠が意味するもの


今回の研究は、低線量被曝でさえ、放射線被曝と白血病のあいだに明白な関連が認められる有力な証拠を提示している。この知見は、放射線防護の基本原則――合理的に達成可能な限りに被曝を減らす防護の最適化――の順守の重要性、そして――患者の被曝の場合――被曝が害よりも善になると正当化することの重要性を示している。 

ガーディアン紙「核のフォールアウトに苦しむハリウッドと風下住民」~なにがジョン・ウェインを殺したのか?

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Winner of the Pulitzer prize 2014

ジョン・ウェイン John Wayne

核のフォールアウトに苦しむ
ハリウッドと風下住民
米国は冷戦期に砂漠地帯を放射能の荒野に転じたが、それを否定しており、いまだにハリウッドとモルモン教徒の地方社会に医療ミステリーがつきまとい、「政府をどこまで信じられるのか?」という問を突きつけている。

映画『征服者』のセットでガイガ・カウンターを手にしたジョン・ウェイン。Photograph: Supplied



ロリー・キャロールRory Carroll, ユタ州セントジョージ
201566



写真は、1954年にユタ砂漠で撮影された、予算も大きいが大ヒットしたジンギス汗の映画『征服者』のセットで休憩中のジョン・ウェインと二人の息子を写している。この映画はハリウッドで最も名高い配役ミスだった。スクリーンの王者にできることは多かったが、13世紀モンゴルの軍閥はそれにあてはまらなかった。映画オタクたちは、これはハリウッドの黄金時代の大失敗作のひとつだと考えている。


この映画が言い伝えに残るのには、もうひとつの暗い理由がある。写真にそのヒントになる。ウェインは黒い金属製の箱を握っており、もうひとりの男がダイアルを調節しているようだ。ウェインの10代の息子たち二人、パトリックとマイケルがじっと見つめ、明らかに興味津々であり、たぶん少し心配している。俳優のご御大はリラックスしているようであり、パトリックによりかかり、帽子は粋に傾けている。灌木の上に載せた箱は、どうということもない見かけである。じっさいには、それはガイガ・カウンターである。


とても大きな検出音が鳴ったので、ウェインは壊れていると思ったと伝えられている。別の場所の岩や砂地にカウンターを移しても、同じ結果だった。だれに聞いても、スターは肩をすくめたそうだ。政府はネヴァダの実験場で原子爆弾を爆発させていたが、100マイル以上も離れていた。当局者たちは、映画が撮影されていた遠隔の埃っぽい町、セントジョージの周辺の渓谷や砂漠は完全に安全であるといっていた。


50年後の現在は繁栄し、空港を備えた小都市になっているセントジョージのディキシー地域医療センターで運営する放射線被曝スクリーニング・教育プログラム(RESEP)の正看護師、レベッカ・バーロウは先週、彼女の患者記録をパラパラめくり、目を通していた。「今年の患者の60パーセント以上が新患です。ほとんどが胸部、甲状腺、何人かが白血病、結腸、肺ですね」と、彼女はいった。


これは、癌の話である。米国は冷戦期に砂漠地帯を放射能の荒野に転じたが、それを否定しており、今日にいたるまでハリウッドとモルモン教徒の地方社会に医療ミステリーがつきまとい、「政府をどこまで信じられるのか?」という問を突きつけている。


フォールアウトに被曝した数万の人びとに与えられた呼び名、いわゆる風下住民の歯に衣着せぬ擁護活動家、ミシェル・トーマス(63歳)は、「DNAに作用します」といった。「埋葬した友人を数えられなくなりました。わたしは愛国者ではありません。わたしの政府がわたしに嘘をついたのです」。


ハリウッドは『征服者』公開50周年になる来年、その名場面を記念することが必定だが、その映画は、ウェインに加えて、主演女優のスーザン・ヘイワード、監督のディック・パウエル、その他にもキャストと撮影スタッフの数十人を殺したと伝えられている。今年の夏、ヒロシマとナガサキの原爆投下から70周年になる。


1956年作品『征服者』。Photograph: Allstar/RKO



マンハッタン計画の科学者たちは1945年、ニューメキシコ州で極秘のうちに最初の原爆実験を実施した。実験は第二次世界大戦後、国民の安全を大義名分にして南太平洋に移された。ところが、朝鮮半島で戦争が勃発し、ソ連との敵対関係が拡大するにおよぶと、安全保障を考慮して、実験はふたたび米国本土に移された。核開発計画を管轄し、ほぼ万能の権限を握る原子力委員会(AEC)は、ネヴァダ州の政府所有地である爆撃・砲撃演習場を選定したのだが、その理由の一端は、風がラスヴェガスとロサンジェルスの方向に吹かず、「放射能の害」は、牧場やモルモン教徒の住む地区はあるが、「実質的には居住に適さない」西側の風下地域に流れるからというものだった。


AEC1951年から1962年にかけて100発以上の爆弾を破裂させ、放射能の塵のピンク色がかったプルームがユタ州南部とアリゾナ州北部の石だらけの谷間や渓谷に流れた。AECはそれぞれの「一発」に、アニー、エディ、フンボルト、バジャーといった名前をつけていた。公的な勧告は、「ショーをお楽しみください」。AECのパンフレットは、「みなさんの最善のふるまいは、フォールアウトについて心配しないことです」と謳っていた。家族連れや恋人たちはスペクタクル見物の特等席までドライブしては、集落に灰が降り注ぐなか、帰宅していた。安上がりのデートだった。


地方紙は最初のころ、ロシア人をやっつけ、歴史に参加するチャンスをはやしたてていた。「原子爆発のスペクタクルは国防の前進、パニックの理由は皆無」と、ユタ州の地元紙ディザレット・ニュースの社説は謳った。コラムニストのクリント・モッシャ―は、これほどきれいな光景は見たことがないと書いた。「家からの手紙、あるいは崇拝し、信頼する人物の握手のようだった」。


もうひとりの風下住民活動家、クラウディア・ピーターソンは自宅で座り、思い出に苦笑していた。「わたしたちはモルモン教徒で、すこぶるつきの愛国者でした。完璧なモルモットです。なにも問いただそうとしていませんでした。わが国の政府がわたしたちを消耗品にみなしていると信じるのは不可能でした」。ピーターソンは、父親、姉と姪を病気で失っており、病因の少なくとも一端は放射線であると信じている。


もうひとりの風下住民、クラウディア・ピーターソン、セントジョージの自宅にて。

Photograph: Rory Carroll for the Guardian


1953年に11発の爆弾が破裂し、3月から6月にかけての数発は、セントジョージとその他の町を灰色の塵で覆わせた。最も悪名高いものは、サイモンという名の51キロトン爆発、そしてハリーという名(後にダーティ・ハリーとアダ名)の32キロトン爆発だった。数千頭の羊が死んだ。AECのプレスリリースは「未曾有の寒冷気象」のせいだとした。


セントジョージの住民4,800人はその1年後、俳優、プロデューサー、技手、スタントマンといった外来侵入集団を町に迎え入れていることを知った。RKO映画社の奇人首脳、ハワード・ヒューズは、感動的なロマンスとアジアの草原の壮大な戦いと信じる夢想に惜しみなく金を注ぎこんだ。モーテルはキャストと撮影隊で満室になり、地元民は作業員やエキストラに登録された。約300人のシヴウィット族インディアンがモンゴルの村人を演じた。


元俳優の監督、ディック・パウエルは給与払いのために記録をとっていたが、その息子でやはり監督であるノーマンがハリウッド近郊の自宅から電話してきたおりに言ったことがある。「父は、ヒューズと真夜中に会っていたと語り、とても奇妙な具合だと言っていました」。


ノーマンは父に同伴し、作業員やエキストラとして仕事をしており、暑く埃っぽい数週間、風の吹き溜まりになるスノウ渓谷における戦闘シーンの撮影を回想した。放射能を心配するものはいなかった。「心配なかったのです。まったく」。


つらい撮影だったが、楽しい思い出が残った。「これがわれわれの考えるアメリカ流なのだ――みんな楽しく互いに助けあっているが、それが単純によい生きかただからなのだ」と、ウェインは回想した。地元民はサインを集め、よく稼いだ。執筆中の小説のために映画について調査したカリフォルニアの作家、ロブ・ウィリアムズによれば、シヴウィット族を除いて、だれもがうまくやったようである。「彼らは一日あたり2ドルか3ドルを支給され、スターたちがエアコン付きのトレイラーで寛いでいるとき、陽の下で座って待たされていました」。


映画はチケット売り場でそれなりに善戦し、1200万ドル近くを稼いだ。だが、セリフ(「俺はこのタタール女が俺のものだと思っているし、俺の血が『この女を奪え』といっている」)、それにフー・マンチュー髭を蓄え、毛皮帽をかぶったアジア人で通そうとする主演俳優の奮迅は、だれの目にも本物に見えず、その点では、ウェインご本人もご多分にもれず、気概としては「自分に相応しくない役柄を演じようとして、バカを見るつもりはなかった」といったと伝えられている。映画はお笑い草になった。


そして時が流れ、キャストと撮影隊員たちが病気になると、映画は暗い評判を呼んだ。パウェルはリンパ液の癌になり、1963年に亡くなった。「癌が非常に速く進行しました」と、ノーマンはいった。ジンギス汗の右腕、ジャムガを演じたメキシコ人俳優、ペドロ・アルメンダリスは同じ年に末期癌と診断され、銃で自殺した。タタールの姫君を演じたヘイワードは1975年に脳腫瘍で死去した。


ウェインが1979年に胃癌で亡くなったときには、『征服者』はRKO放射能映画と蔭口された。彼の息子たち、パトリックとマイケルはみずからの癌の恐怖と戦い――生き残った。ヒューズは、罪の意識だろうか、別の理由によるのだろうか、『征服者』のコピーをすべて買い上げ、彼の最期、隠遁の歳月を通じて毎晩、繰り返しそれを鑑賞していた。


ミッシェル・トーマス、ユタ州セントジョージの自宅にて。Photograph: Rory Carroll for the Guardian


1980年のピープル誌記事は、220名のキャストと撮影隊員のうち、91名が癌を罹患し、46名が死亡したと伝えた。撮影中に核実験は実施されていなかったが、ユタ大学の放射線医学主任、ロバート・ペンドルトンが、おそらく以前の爆発による放射能がスノウ渓谷に残留していたのだろうと語ったと記事は伝えている。記事はまた、国防総省・防衛原子力局の科学者がいったという罰当たりなことばを伝えている――「神さま、わたしたちをジョン・ウェイン殺害の下手人にしないでください」。


米国は自国の根性と愛国心の権化を殺害したのだろうか? 答えは、おそらくノーだろう。彼の未亡人、ピラルによれば、一日あたり4パックは吸うというチェーン・スモーキングが死亡原因らしいとのことである。他の『征服者』キャストと撮影隊員の多くもやはりヘヴィ・スモーカーだった。ノーマンは20代で禁煙し、現在は精力的な80歳であり、ハイキングとバーベル上げに勤しんでいる。彼は、放射能は父親の死に対して、せいぜい死因のひとつであると考えている。原因がなんであれ、彼は癌につきまとわれている。「わたしの父、母親、末の娘、それに親友の5人が癌で死にました。この忌々しい病気は大嫌いです」。


実験場の北方と東方の三州フォールアウト地帯に居住していた約100,000の人びとは、ハリウッド訪問客よりも影響を受けた可能性が高い。彼らは何年にもわたって、汚染された塵を吸い、汚染された水とミルクを摂取していた。1960年代はじめ、小児白血病と成人の癌の多発が明らかになりはじめており、アルコールとタバコを断つモルモン教徒は癌の発症率が格別に低いので、これは衝撃的な新規現象だった。1984年の米国医師会誌に公表された研究は、フォールアウト地帯のモルモン教徒を他のモルモン教徒に比較しており、白血病の頻度が5倍になっていることを見つけた。


トーマスは、1951年に実験がはじまったとき、胎児だった。彼女は子どものころ、核戦争演習のさいに机の下に潜り、その後、校庭に送り出されて遊び、灰に覆われていたと彼女はいう。


彼女の母親、イルマは、一人孤独に危険を警告する運動に勤しんでいた。「彼女は手紙を書き、地図を作成して、近隣の家屋を表す四角の列を描きこんでいました。だれかが病気になると、その四角にX印を入れるのです」。トーマスは美人コンテストの野心を抱いたチアリーダーとして、この奇人めいた行動主義に当惑していた――が、それも彼女が、筋肉の衰弱をともなう病気、多発筋炎に取りつかれるまでのことだった。彼女は後に乳癌にかかった。彼女は生き延びたが、母親が癌で亡くなった。


トーマスは先週、セントジョージの自宅で車いすに座って話すとき、辛辣で歯に衣着せない風下住民擁護活動家だった。「ジョン・ウェインをボロクソに言っていなければ、ご免なさいね。連中はわたしのDNAを書き換えました。わたしの人生を書き換えたのです」。


もうひとりの活動家、ピーターソンは、政府の科学者たちが学校を訪問しては、甲状腺と放射能レベルを検査し、ヒロシマとナガサキのデータを引っ張りだしていたと回想した。「彼らはブルース・ブラザーズのような黒スーツを着ていました。なにが起こっているか、ご存知でした」。


地上核実験は1959年に休止し、1962年に短期間ながら再開し、その後、地下に移され、1992年のモラトリアムまで(英国の核兵器プログラムのための一部を含め)数百発の爆弾が破裂させられた。


レベッカ・バーロウ(左)とキャロリン・ラスムッセン(右)、セントジョージのRESEP診療所にて。ネヴァダの地上核実験の詳細を記したシートを広げている。
Photograph: Rory Carroll for the Guardian


1980年代の訴訟によって、科学者と官僚たちが証拠を過小評価し、歪曲していたAEC内部報告が暴露され、癌の原因になるフォールアウトが解明されたが、政府は全面的に否定している。連邦議会は1990年に放射線被曝倍賞法案を可決し、地上核兵器実験との関連が明白な癌および重症疾患をわずらう風下住民のための基金を設置した。賠償の上限は一人あたり50,000ドルと定められた。


基金はこれまでに約20億ドルを支払っており、第一世代の風下住民が死に絶えるまで支払いつづけると決められている。彼らの子どもたちや孫たちは、どのような健康問題にも関係なく、除外されている。放射線被曝スクリーニング・教育プログラム(RESEP)は地域内の8か所で診療所を開設している。診療所は診断をおこない、治療法を助言していて、資格があれば無料である。


セントジョージの診療所は、明るく近代的な施設であり、これまでの5年間、一年あたり平均140人の新規患者を受け入れてきた。正看護師、バーロウと、カウンセラー兼ケース・マネジャー、キャロリン・ラスムッセンは、陽光のような爆発を見つめていたこと、ポーチから灰を掃き落としていたこと、縁者の死を看取ったことといった思い出話を聴きとっている。


「聴きとることも、仕事のうちです」と、ラスムッセンはいった。「わたしたちがここにいるので、感謝するみなさんもいますし、ただ怒っており、起こったことに恨みを抱いている方がたもいます」と、バーロウは頷いていった。「血の代償と考え、お金を受け取ろうとしない方もいます。このプログラムを創始した政府は、実験をやった政府とは別物なのだとわたしたちは説明しています」。


複数の要因が癌の原因になり、放射線がジョン・ウェインの死に寄与したのか否か、知りようがない。だが、大気圏内核実験が多くの家族に凄まじい犠牲を押し付けたことには、疑問の余地がない。大勢の縁者を失った活動家、ピーターソンは、ソ連が核実験を実施していたカザフスタンの遺族を訪問したとき、啓示を感じた。「わたしは子どものころ、あの人びとが恐ろしかったのですが、怪物じゃないとわかりました。わたしたちを殺していたのは、わが国の政府だったのです」。

国際新聞編集者協会(IPI):自民党による報道抑圧を警告する

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国際新聞編集者協会(IPIInternational Press Institute


201576

日本の報道に対する圧力に高まる懸念

IPIは政権幹部が言論の自由を尊重すると明言するよう切に求める








201573日、東京の首相官邸にて、首相主催の歓迎晩餐会で、カンボジアのフン・セン首相、その他のメコン・デルタ諸国首脳らと乾杯のグラスをあげる安倍首相(右)。REUTERS/Toru Hanai




コラ・ヘンリー、アルタン・ムスタファ:IPC寄稿者

By: IPI Contributors Cora Henry and Artan Mustafa


【ウイーン/201573日】国際新聞編集者協会(IPI)は本日、日本における一連のできごとを例にあげ、報道機関が政権与党に対する批判を抑制するように強いる圧力に直面しているとして、日本政府はこうした懸念に対処する措置を実行する必要があると声明した。


先週のこと、自民党の若手40名が会合を開いたさい、数名の国会議員と講師として招かえた有名な小説家の百田尚樹氏が、大いに論議の的になっている安保関連法案に対する認識が乏しいとして、メディアを攻撃し、政府に対して、「メディアを懲らしめる」ため、財界の圧力をかけ、自民党の政策を問題にする新聞の広告を減らさせるように要求したと伝えられている。


安倍晋三首相とつながりのある百田氏は625日の会合のさい、さらに刺々しい姿勢を見せ、沖縄タイムズと琉球新報の撲滅を要求したという。2紙はそれに対して、626、「政府の政策に批判的な報道は、民主主義の根幹である」と声明した。


自民党の安倍総裁は月曜日、こうした発言に遺憾の意を表し、「言論の自由は民主主義の基盤である」と信じるといった。自民党は日曜日、自民党青年局長に対する1年間の役職停止とその他3名の国会議員に対する口頭注意を内容とする処分を発表した。


しかしながら、叱責処分を受けた一人、大西英男氏は、会合での発言を繰り返した。大西氏は4日、「過った報道に対しては広告を自粛すべきだと個人的には思う。報道機関を懲らしめようという気はある」といったのである。


日本新聞協会の編集委員会は声明を発表し、「わたしたちは、民主主義の根幹である表現の自由、報道の自由を弾圧するかのような動きに断固反対する」と言明した。


批評家たちは最近の一連の動きをあげ、日本における報道機関に対する政治的圧力が増大していると訴えており、これはIPIが共有すると明言している懸念である。


IPIのスティーヴン・E・エリス弁護・広報部長は、「自民党の党員たちが報道機関に対して不適切な政治的圧力をかけていると思われる行為にふけっていることに、われわれは当惑している。われわれはデモクラシーにおける独立した報道機関の根源的な必要性に鑑み、日本の指導者らに対し報道機関の報道の自由を尊重することを明言し、守るために必要な措置をとるよう切に求める」と述べた。


英紙フィナンシャル・タイムズは3日、妨害者らが安倍首相のスピーチに介入した最近のできごとを伝えた報道機関はなかったと伝え、「礼儀正しい日本にしては、極めて異常な事態である」と書いた。タイムズは、事態の進展は安倍氏と自民党が報道機関を「屈服させ、または取り込んできた」程度を示していると書いた。


観測筋は今年早く、417日に自民党の情報通信戦略調査会が日本放送協会(NHK)と大手民間ネットワークのTV朝日の幹部らを召喚し、それぞれがテレビ放映した問題のある2番組について問いただしたさい、同じような懸念を表明していた。


問題視されたのは、327日、夜のニュース番組として放映されたTV朝日「報道ステーション」であり、政治解説者の元政府官僚、古賀茂明氏がその番組で「I am not Abe」と英語で書かれたサインボードを掲げ、首相官邸が彼を「バッシング」していると断言した。


安倍内閣はその主張が「根拠がまったくない申し立て」であると主張した。TV朝日は後に、同じ番組で謝罪し、早河洋会長は、このできごとを「あってはならない件」と表現した。


NHKの代表らは、20145月に放送された人気の報道番組の取材にまつわって召喚された。報道によれば、放送局は、詐欺的な企みのブローカーであると判明した面接取材を捏造していた疑いがあると批判された。NHKはこの事例を調査し、特集内容のいくつかの箇所に間違いがあったと謝罪した。


日本の放送法は、放送事業者が政治的に不偏不党であること、事実にもとづいた番組を提供することを求めている。しかしながら、日本の大手報道機関は、与党の行為が分際を外れているように見ているといった。


読売新聞は418日付け社説で、「テレビ局が不偏不党に徹した報道を行うのは当然だ」とした。しかし、社説は、「意見聴取は、政権側による圧力や介入との疑念を持たれかねない」とも書いている。


朝日新聞の417日付け社説は、「番組に確かに問題はあった」と書いた。だが、「自民党は、あの手この手で放送に対する政治的な「介入」を強めようとする。そう見られても仕方がない行為は、厳に慎むべきだ」とも書いた。


毎日新聞オンライン・ニュース・ウェブサイトは同日付け社説で、自民党が以前にも報道事業者に対し、「街頭インタビューの集め方など番組の構成について選挙報道の公平中立」および「首相の経済政策であるアベノミクス」報道の公平中立を求める要望書を配布していた例をあげた。


同社説は、「安倍政権が放送法をひいて細かい『配慮』をたびたび求め、結果としてメディア側にそんたくや、萎縮の傾向があることは否定できない」と書いた。


ジャパン・タイムズは422日付け社説で、「放送事業者は自民党の圧力と介入の前に萎縮してはならない」と書き、「放送事業者の責任は重い。テレビ、その他のマスメディアが政府や政党の圧力をさせるために、自己規制や自己検閲に踏み込むなら、この国の民主主義は危うくなるだろう」とつづけた。



ニューヨーク・タイムズは426日、「政府関係者が言論の自由を奪うつもりがないと否定する一方で、多くのジャーナリスト、コメンテーター、メディア専門家は、政府の作戦がすでに安倍政権報道を抑制していると語っている」と伝えた。

ディプロマット誌「ユネスコと日本の忘却の所業」~明治産業革命遺産における強制労働の歴史

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THE DIPLOMAT アジア太平洋評論誌『ディプロマット』




UNESCOと日本の忘却行為

日本の明治産業革命世界遺産の指定は、ある種の重要な歴史を見過ごしている。


ミンディ・コトラー Mindy Kotler

201573


Image Credit: UNESCO via 1000 Words / Shutterstock.com

今年はカレル・アスターの年である。チェコ共和国は4月、この95歳のフロリダ州住民の第二次世界大戦における豪胆さと勇気を認め、国家の最高栄誉である感謝勲章を授与した。アスターは1941年、フィリピンを日本の侵略から防衛する米軍に志願した。彼は、戦闘、バターン死の行進、日本行きの捕虜輸送航海、数年にわたる九州は大牟田市の三井炭鉱における奴隷労働に耐えて生き残った。


三井炭鉱には、アメリカ人のレスター・テニーとオーストラリア人のトム・ウレンもいた。テニーもやはりバターン死の行進の生き残りであり、2009年、日本のアメリカ人戦争捕虜に対して謝罪するように日本政府を説得した。ウレンは今年1月に死去したが、労働党幹部の政治家として、第二次世界大戦と朝鮮戦争で捕虜となったが生き残ったオーストラリア人900人に追加支給金の支払いを実現していた。


UNESCOは今週末、三井三池炭鉱を日本の初期近代化世界遺産に指定する。しかし、日本の推薦文書は、現地における第二次世界大戦の捕虜や何千人ものアジア人奴隷労働者について一言も触れていない。


UNESCOは、日本が推薦する同じような現場23か所を認定することになっている。そうした鉱山、鋳造所、造船所につきまとう暗い歴史に関する説明は欠落することになる。これらの世界的な史跡なるものの歴史の全体像について沈黙することは、UNESCOの国際的な目標と米日同盟を傷つけることになる。


目下、UNESCO世界遺産リストに1,007か所が登録されている。これらは、「国際理解と国際協力の手段」として活用される。世界遺産の栄誉は、比類のない文化的達成に寄せられる敬意と国際的な注目をともなっている。


世界遺産の現地は、観光の呼び物になることが多く、世界遺産指定を衰退する地域や都市を復興するための方途と見る国が多い。これこそが、日本の遺産指定推薦の背後にある動機である。それにしても、歴史の選択的な叙述は、安倍政権の一大政策、過去における日本の自尊心を取り戻すことの一環なのだ。


UNESCOに推薦された日本の地域は、この国の経済停滞に最大の打撃を受けた地域の例にもれず、観光客が落とすドルを追い求めている。観光は日本の成長産業であり、中国人客が倍増し、韓国人客もそれほど負けていない。推薦地の多くはまた、安倍晋三・総理大臣、麻生太郎・副総理大臣・財務大臣、林芳正・農林水産大臣の地元でもある。


麻生氏と林氏それぞれの同族企業、麻生グループと宇部興産は、推薦対象に含まれる会社の現場で連合軍捕虜の奴隷労働者を使役していた。推薦された8地域の産業地帯のうちの5地域に26か所の戦争捕虜収容所があって、三井、三菱、住友、麻生グループ、宇部興産、東海カーボン、日本コークス工業、新日鉄住金、古河企業グループ、電気化学工業など、日本の大企業に連合軍戦争捕虜13,000人の奴隷労働力を供給していた。戦争捕虜たちは、米国、カナダ、英国、オーストラリア、インド、ニュージーランド、ジャマイカ、ポルトガル、南アフリカ、マラヤ、アフリカ、チェコスロヴァキアの出身だった。


おまけに、当時、門司港と呼ばれていた北九州と長崎の推薦された港湾は、35,000人近くの連合軍戦争捕虜の到着地であり、そのうちの約11,000人がアメリカ人だった。適切にも「地獄船」と呼ばれた船舶に積載され、日本に向かう航海で、7000人を超える米軍と連合軍の戦争捕虜が死亡し、また日本で3,500人以上が死んで、そのうちの25パーセントは到着してから30日以内に亡くなっている。


日本における奴隷労働は、第二次世界大戦とともに始まったのではない。強制され、徴集された労働は、19世紀の明治期日本における鉱業と製造業の重要な要素だった。日本は明治時代(18681912年)後期以降、私企業の工場や事業所に労働力を供給する「産業刑務所」を使っていた。1930年代まで、鉱夫の大多数は、受刑者であり、あるいは明治の土地改革で土地なしにされた小作農や「非人」だった。三分の一は女性だった。中国人と朝鮮人は、日本の鉱山、工場、造船所ドックの重要な労働力になった。


日本政府による世界遺産推薦は、このような現場の歴史的意味の全体像を把握しそこねている。日本の近代化には、日本人と外国人、貴人と非人、戦争捕虜奴隷と徴用朝鮮人、そして女と子どもがかかわっていた。日本が語りたい筋立ては、このような人びとを埒外にしており、「普遍的な価値および意味」というUNESCO基準に合格しそこねている。


日本とUNESCOは、暗い歴史をあえて認知している他の世界遺産現地のたぶん驚くばかりの積極的な経験に注目すべきである。この点で、海商都市リヴァプール遺産は顕著な事例である。リヴァプール港は18世紀および19世紀初期における奴隷の三角貿易で重要な役割を担っていた。


リヴァプールは、嘆かわしい(そして、今日では犯罪的といえる)ビジネスにおける重要な役割を認知している。リヴァプールは2007年、波止場に国際奴隷博物館、2006年、リヴァプール大学の国際奴隷研究センターを開設した。リヴァプール、ヴァージニア州のリッチモンド、ベニン共和国のコトヌー各港の波止場に同一の奴隷制度犠牲者記念碑が建ち、3か所に共通の記憶をつないでいる。これらの資産は、学者やその他の人びとを惹きつけ、リヴァプールには歴史を――よい面も、悪い面も――学び、理解できる場所があるとして、実質的に評判を大きく高める一助になった。


今日のUNESCO世界遺産委員会に代表を派遣している21か国のうち、6か国の国民が日本の本土に抑留された第二次世界大戦捕虜だった。すなわち、インド、マレイシア、ジャマイカ、フィンランド、ポーランド、ポルトガル、そして韓国である。7番目の韓国は、何十万人もの男や女たちが奴隷状態に近い労働力として徴集されていた。


米国はUNESCOの投票権をもっていない。だが、米国政府は日本の同盟者に物申し、米軍退役兵に負債があることを思い出させ、その自由を防護することができる。


194589日の午前、大牟田市にいた戦争捕虜の全員が湾[有明海]の向こうの長崎から立ち昇る赤い雲を見た。すこぶる近代的な兵器が三池炭鉱における彼らの苦役を終わらしたけれど、彼らは明治時代とほとんど変わらない労役を経験したのである。彼らはそのような強制労働が繰り返されることを望まないだろうし、また忘れてほしくないのは確かなことだろう。


現状のままなら、日本による明治産業遺跡の推薦は忘却の所業である。日本の産業化の歴史の全体像を度外視しているのだ。UNESCOがこれを受諾すれば、その憲章と大日本帝国に奴隷化された数千人の記憶に背を向けることになる。


【筆者】

ミンディ・コトラーMindy Kotlerは、ワシントンDCのシンクタンク、アジア政策ポイントの代表。

アルジャジーラ「ガザで生まれ育って~ パレスティナの10代女性 @Farah_Gazan の青春」

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 ALJAZEELA

ガザで生まれ育って~パレスティナ10代女性の物語


17歳のファラ・バケルは、三度の戦争を生き延び、それでもパレスティナ人の権利を求めて戦うためにガザに残りたいと願う。


ファトマ・ナイブFatma Naib 201577


「友だちに会えば、ぶらついたり、映画を観たり、海辺を散歩したりします」。[Farah Baker/Al Jazeera]

 

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「今でも爆弾の音を憶えています」と、ファラ・バケルはささやくようにいう。


この名前に聞き覚えがあるなら、このガザ地区の17歳の女性が昨年夏、イスラエル軍の攻撃によってもたらされた地区の惨状を記録するのに貢献したからなのかもしれない。


当時、16歳だった学校生徒はツイッターで“Guess what”を名乗り、彼女が目撃した死と破壊の光景を――一回140文字の制限付きで――世界に伝えていた。


彼女のツィートは急速に拡散された。

[メッセージ「わたしはファラ・バケル、16歳のガザの少女です。生まれてから三度の戦争を生き延び、もうたくさんだと思います」]

彼女は50日戦争が勃発してから1年後のいま、こういう――


「わたしのツィートに圧倒的に肯定的なレスをいただいたものだから、びっくりしました。ほんの数週間でフォロワー数が800から200,000に跳ねあがりました。


「みなさんも真実を知りたいのでわたしをフォローしてくださるのだと気づきました。


「政治は話題にしませんでした。わたしの戦争中の暮らしについて書いただけです」と、彼女は説明する。


暮らしを語ることは、絶えることのない死の恐怖とともに生きることがどのような感じがするか、生身のまま伝えることだった。


「民間人が標的にされ、わたしたちみなは、いつ死んでもおかしくないと感じていました。


「爆発と鳴り響く救急車のサイレン…いまでも憶えています。なにもかも憶えているのです」 

 今夜、わたしは死ぬかもしれない

「わたしたちは攻撃されていました…ガザで起こっていることを世界に知ってもらいたかったのです」



バケルは、欧米メディアがイスラエル側についており、2,200人以上のパレスティナ人を殺し、50万人以上に避難を余儀なくさせた戦争中のできごとについて、「不公正な」描写を伝えていると信じていた。


そこで彼女はツイッター・アカウントを取得し、自宅の発電機を活用した。


ほぼ絶え間ない停電のため、ガザ住民が外部世界と通信する手段を奪われていたので、バケルはこの通信を途絶えさせない使命をみずからに課した。


彼女は戦況が推移するさなか、絶え間ない爆撃音がわが身を襲う様相をツィートし、彼女の居住地周辺の絶え間ない爆撃のようすを撮影したビデオを投稿した。


彼女は最も鮮明な印象が残るツィートのひとつに、「これはわたしの地域。泣くしかない。今夜、わたしは死ぬかもしれない」と書いた。



 [メッセージ「3:00am、まだ暗いはずだが、ご覧のように照明弾が暗闇を明るくしている」]

そして、このツィートのために彼女がイスラエルの注目の的になったとバケルはいう。ツイッターで何人かのイスラエル人に何度も脅されたのである。「俺たちはお前を見つけ、爆弾を落とす。お前のやっていることをやめるんだ(と、連中はいったのです)」と、彼女は説明する。
だが、彼女がいうには、脅迫は彼女の――あるいは彼女の両親の――勇気をくじかなった。外科医である父親と医師である母親は危険であっても、自分たちの娘を支えた。


最も恐ろしい一日

最近、ガザのカトリック学校を卒業し、いつの日か、法律家になりたいと願っている、この10代の女性は、三度の戦争を生き延びてきた。だが、なんといっても最近の戦争が「最も恐ろしかった」と、彼女はいう。


そして彼女は、その最も恐ろしい戦争の最も恐ろしい一日を、まるで昨日のできごとのように憶えている。


それは728日のできごとであり、ガザのバケル家に近接したシーファ病院周辺の砲撃は情け容赦のないものだった。


「砲撃が止みませんでした。家が崩れるかと思いました。


「あの日、きっとわたしは死ぬのだと思いました。朝、目が覚めたとき、生きていたので、びっくりしました」


2,000人近くの人びとが身を寄せていたシーファ病院に対する728日の攻撃は、国際医療団体「国境なき医師団」(MSF)の糾弾の的になった。緊急治療施設が失われた。


バケルは自分たちの現実を世界にツィートするだけでなく、幼い年少者2人を慰め、安心させる仕事があった。

[メッセージ「まだ6歳の妹は三度の戦争を目撃!」]


「末の妹はまだ7歳ですが、三度の戦争を経験しているのです」と、バケルはいう。「砲撃が最悪だったとき、わたしたちは大丈夫、爆撃がおしまいになるから、楽しい夏休みになるわ、と妹に言いつづけていました」。


ガザに閉じ込められて


しかし、バケルと妹たちの楽しい夏休みを台無しにする戦争がないときでも、いまではお馴染みになっており、それでも戦いを挑むべき地区包囲攻撃がある。ハマスが立法評議会選挙で勝利したあとの2006年、イスラエルは領域封鎖に踏み切り、1年後にハマスがガザ支配権を固めると、封鎖を強化した。


住民が脱出する方途はひとつ、ラファ検問所を経由してエジプトに出ることだけだった。そして、2015年はじめ以降、エジプトがラファ陸上検問所を開いたのは、5日間だけだった。


すると、バケルにとって、夏休みはどのようなものになるだろうか?


「チケットを購入して、好きなときに旅行したいです」といって、彼女は思いを巡らせ、「アマゾンで本を注文できれば、と思います。夢はとてもたくさんあります」と言い添える。


だが、彼女が地区を離れることができたのは、これまでに一度だけだった。9歳の時だった。


「小さかったころ、エジプトとデュバイに旅行しました」と、彼女は回顧する。「はじめてエジプトで飛行機を見たとき、イスラエルの戦闘機だと思い、とても怖かったです」。


だが、恐れはまもなく、故郷の境界を超えた世界に対する畏敬の念に変わった。


「あのとき、停電がないという事実にびっくりしました。ガザでは、停電続きが標準なのです。



「驚きでした。行きたいところに旅行でき、好きなところに、どこでも行けるのです。それが、わたしの夢見た生きかたでした」

ファラはガザのカトリック学校を卒業し、いつの日か、法律家になりたいと願っている。 [Farah Baker/Al Jazeera]


だが、バケルは目下のところ、いついかなる時でも次の戦争が勃発するわけではないと知ることだけで、満足しているのだろう。


「次の戦争の可能性を常に恐れながら生きるのではなく、安全だと感じていたいのです」と、彼女はいう。


だが、いざ戦争が勃発すれば、世界中に彼女のオンライン家族がいて、彼女の無事を願い、投稿するごとに彼女を追跡してくれることを彼女は知っている。そのような友人たちが「(昨年夏の)戦争の最悪期」に彼女を支えてくれたのだ。
 [メッセージ「わたしは泣き喚き、爆撃音が我慢ならず、聴覚を失いそうだ」]

「最も恐ろしかった時期、戦闘が激しくて、怖く、悲しかったとき、みなさんはわたしを励まし、わたしの働きを褒めてくれ、続けるべきだといってくれました。


「いつの日か、みなさんにお礼をいい、わたしを支えてくれたのと同じように、みなさんを支えたいと願っています」と、バケルはいう。


『きっと、星のせいじゃない』


バケルは目下のところ、ソーシャル・メディアをご無沙汰しており、世界に向けて包囲下の暮らしをつぶやいていないが、勉強したり、音楽を聴いたり、ビデオ・ゲームで遊んだりして忙しい。


「わたしはテイラー・スウィフトとブルーノ・マーズを聴くのが好きです」と、彼女はいう。「友だちに会えば、ぶらついたり、映画を観たり、海辺を散歩したりします」。


封鎖が解除されたとしても、ガザが故郷なので、ファラは離れたいと思わない。[Farah Baker/Al Jazeera]


ここで彼女はクスクス笑い、映画の『アダルトボーイズ青春白書』と『ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』が大好きだという。「もちろん、ガザでは検閲されています」と、彼女は付け加える。



『きっと、星のせいじゃない』も好きな映画である。彼女はその本を持っている。お母さんが、ラファ検問所が開かれた稀な機会に持ち帰ってくれたのである。彼女はたぶん今度の夏に読むだろう。


では、バケルは、ガザ地区を離れることができる日を確かに待ち望んでいるのだろうか? それほどでもない、と彼女はいう。


「わたしは、ここにいる友だちや家族と別れたくありません。なぜわたしが彼らをここで苦しませたまま残していく必要があるのですか?」と、彼女は問いかける。「わたしは彼らが好きなのです」。


「わたしたちは閉じ込められています。戦争が勃発すれば、だれも逃げられません。行く場所もなく、捕らわれているのです」


彼女は断固として忘れていないし、許していないが、未来を待ち望んでいる。


「わたしは初めての自由を経験したいのです」と、彼女はいう。「しきりに念頭をよぎる戦争の記憶に別れを告げたいのです」。


Source: Al Jazeera



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@fairewinds【核の経済学】化石燃料・核エネルギー経済の終焉と21世紀型エネルギー経済

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核の経済学


The Economics of Nuclear




201578


キャロライン・フィリップス Caroline Phillips, フェアーウィンズ理事

フェアーウィンズ・エネルギー教育のわたしたちは、今年2015年がエネルギーの未来にとって転換点になると信じております。わたしたちは長年にわたり、エイモリー・ロヴィンス、マイクル・シュナイダー両氏、そしてマーク・クーパー博士など、洞察力のある方がたが、再生可能エネルギーの未来のほうが、石炭、石油、核、ガスのパラダイムよりも適切であることを示す現実的なデータと経済分析を提示なさるのを耳にしてきました。わたしたちはいま、イーロン・マスク氏のパワーウォール、つまりソーラー・パネルの電力で充電する家庭用や産業用のバッテリーなどの発明によって、この方がたの予測が実現しようとしているのを目のあたりにしています。マスク氏の発明品は蓄電コストをキロワット時あたり2ないし4セントまで削減するものであり、世界的なクリーン・エネルギー経済への道を開くものです。ソーラー発電コストは、キロワット時あたり6セントほどです。ですから、発電コストと蓄電コストを合わせると10セント、またはそれ以下になりますが、新規原子力発電所の場合、発電コストは16セントで高止まりしています。


エイモリー・ロヴィンス氏は、40年間にわたるエネルギー政策研究履歴を、エネルギーの未来はエネルギーの過去に似ていないという考えに捧げてきました。傑出した環境思想家であり、ロッキー・マウンテン研究所の創立者、エイモリー・ロヴィンス氏は、2011年出版の書物“Reinventing Fire”[山藤泰訳『新しい火の創造』ダイアモンド社]を著しました。ビル・クリントン[元]大統領が「賢明で詳細、包括的な青写真」と賛辞を寄せる『新しい火の創造』は、化石燃料や核によるエネルギーに依存せず、しかも巨額の産業コストを削減する、交通運輸、建設物、電力における既存市場に依拠した新機軸を探究しています。ロヴィンス氏はフェアーウィンズの友人であり、2年前にヴァーモントを訪れ、クリーンな再生可能エネルギーを育成することで核の力に頼らない世界エネルギーの未来について、フェアーウィンズ主任エンジニア、アーニー・ガンダーセンを相手にビデオ対談をなさりました。


ガンダーセンは世界ウラニウム・シンポジウムにおいて、原子力の経済分析に関するプレゼンテーションをおこない、電力事業者とエネルギー企業がわたしたちを中央集権的な発電所方式の20世紀型パラダイムに閉じ込めようとしているときっぱり指摘しております。ガンダーセンはロヴィンス氏と同様に、政策立案者らとエネルギー産業に対して、小型発電装置と蓄電によって地域的に配電する電力網を支えるように提案し、エネルギーの過去を模倣しないエネルギーの未来を推奨しています。ガンダーセンは、国際エネルギーおよび核政策の独立コンサルタントであり、やはりフェアーウィンズの友人であるマイクル・シュナイダーが収集なさった膨大なデータを用いて、再生可能エネルギーによる未来の経済的な利点のみならず、原子力による場合の現実的な経済的リスクを詳細に語りました。


「政策立案にあたる方がたが、現実の世界統計にもとづくリスクをご覧になれば、核を構築するような決定を下さないでしょう」と、ガンダーセンはいいます。政策立案者たちは、核反応炉を建造する企業、それに原子力規制委員会などの規制機関に影響されて、核反応炉事故の確率は、100万――炉年――に1回であると信じこんでいます。ガンダーセンは、世界に400基の核反応炉があるといいます。100万を400で割ると、2,500年に1回の核事故ということになります。ガンダーセンはさらにまた、これまでの35年間に5件の核事故が勃発したのであり、歴史的な事故頻度は7年ごとに1件になるといいます。現実の世界データをご覧になれば、経済コストと安全リスクは余りにも高いことになります。


マイクル・シュナイダー氏は、核エネルギーに関して、数えきれない国際機関、諸国政府、NGOにコンサルティング業務を提供してきました。シュナイダー氏はフェアーウィンズ・エネルギー教育と共同制作したQ&Aビデオで、フランスの核反応炉の群に見る核の力ファンタジーを論じ、その正体を暴きました。シュナイダー氏は世界ウラニウム・シンポジウムにおいて、原子力の経済史とデータ評価、グラフ化された正確な数値を提示し、原子力規制委員会の元委員長、ピーター・ブラッドフォード氏が述べた、「原子力発電所を建設して、地球温暖化を防止しようとするのは、キャビアを提供して、世界の飢餓問題を解決しようとするようなものです」という有名な引用句の真実を余すところなく明らかにしました。


最後になりましたが、今月のもうおひとりの主導的な先見者でおられるマーク・クーパー博士は、“Power Shift: The Deployment Of A 21st Century Electricity Sector And The Nuclear War To Stop It”[『パワー・シフト~21世紀型電力部門の展開とそれを阻む核戦争』]と標題した報告を公開なさいました。クーパー博士は2011年の報告“Nuclear Safety and Nuclear Economics”[『核の安全と核の経済学』]において、スリーマイル・アイランドにおける1979年のメルトダウンなど、以前の核事故を論じ、「重大な反応炉建造コスト(増大要因)」と喝破なさいました。エール大卒のフルブライト・フェローでおられるクーパー博士は、ヴァーモント法科大学院のエネルギー・環境研究所で経済分析担当の上級研究員を務めておられます。クーパー博士の立場は2014年の論文“The Economic Failure Of Nuclear Power And The Development Of A Low Carbon Electricity Future: Why Small Modular Reactors Are Part Of The Problem, Not The Solution”[『原子力の経済的破綻と低炭素電力開発の未来~小型モジュール反応炉が解決策にならず、問題の一端である理由』]で明らかであり、わたしたちは核のルネッサンスを目撃しているのではなく、期待が完全にしぼんでしまうのを目のあたりにしているのです。


新しい火の創造
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20141027

サイエンティフィック・アメリカン/ロイター「長期低線量被曝によって白血病リスクが上昇」

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SCIENTIFIC AMERICANTM






長期低線量被曝によって白血病リスクが上昇する可能性

白血病は、1945年に日本で投下された原子爆弾が放出したもののような高線量放射線による被曝が原因になることは知られている


2015710



キャスリン・ドイル Kathryn Doyle


【ロイター・ヘルス】フランス、米国、英国の300,000人以上の労働者を対象とする長期的な研究によって、長年にわたる低線量放射線被曝をこうむった労働者の白血病による死亡リスクの上昇が認められた。


医療従事者、それに患者さえもまた、数十年前には普通であった線量よりもずっと大量に被曝していると論文の著者らは指摘するが、癌のリスクを高める低レベル放射線による被曝線量は明らかでないと著者らはいう。


「多数の疫学または放射線学の研究によって、電離放射線による被曝が癌や白血病の原因になりうることを示す証拠があげられています」と、筆頭著者、フランスはセデックスのフォントネー=オー=ローズ・コミューン(行政区)放射線学・疫学部門のクレヴィ・レラウ(Klervi Leraud)博士はいった。


「米国、英国、あるいはフランスで電離放射線に被曝した労働者が、後に白血病と診断されると、いまでは賠償給付金を請求できます」と、レラウ博士はロイター・ヘルス宛てのEメールで告げた。


白血病は、1945年に日本で投下された原子爆弾が放出したもののような高線量放射線による被曝が原因になることは知られている。著者らは621日付けランセット血液学誌(The Lancet Haematology)オンライン版で、原爆投下後の歳月に、被爆者の白血病の症例数が増えたと指摘する。だが、今日では、そのような高線量は稀である。


研究者らは今回の研究のために、放射線被曝が検査されていた核エネルギー労働者の308,297名を考察の対象にした。その全員が、フランスの原子力委員会やその同類の雇用者、あるいは米国のエネルギー省と国防総省で少なくとも1年間は働き、あるいは英国の全国放射線労働者登録に記載されていた。


労働者たちは、国によって2000年代初期から中期の被曝データおよび健康状態が把握され、平均27年間にわたり追跡された。研究者らは白血病またはリンパ腫による死亡例を探した。


追跡期間が終了するまでに約22パーセントの労働者が死亡していた。白血病による死亡は531例、リンパ腫による死亡は814例だった。


放射線被曝の積算線量が増えると、ある種の白血病による死亡リスクが上昇することを研究者らは突き止めた。


労働者は平均して、研究期間中に積算線量16ミリグレイ(mGy)の放射線に被曝しており、1年あたりに均せば、約1 mGyになる。ちなみに、米国食品・医薬品管理局によれば、腰椎の医療用コンピューター断層撮影(CT)スキャンを一回受けると、患者は1ないし2 mGyの被曝をすることになる。


米国において、1982年の平均的な人の電離放射線による年間被曝線量は0.5 mGyであったが、2006年にはそれが3 mGyに上昇しており、その要因は主として医療被曝であるとレラウらは書く。


研究者らはこの新研究において、総被曝放射線量が1グレイ(1,000 mGy)増えるごとに、労働者の白血病リスクは3倍に跳ね上がると計算した。慢性の骨髄性白血病に対する影響が最も甚大であり、リスクは1グレイごとに10.45倍も上昇した。


「こうした知見はとりわけ新しいものではなく、他の研究による知見を集約しているにすぎません」と、ドイツはマインツの大学医療センターに所属するマリア・ブレットナー博士は述べた。博士は、最近の2年間で職業被曝政策が変更され、積算被曝量が削減されたと指摘した。


研究結果は積算被曝線量の増加が白血病の過剰リスクを招いていることを示しているように見えるものの、論文の統計誤差が大きく、誤った正比例関係を示している可能性が残ると、ブレットナー博士は論文に付属する評言に書いている。


エネルギー労働者にとって、「たいがいの――すべてでなくても――国の放射線安全基準は、非常に高いです。職業人の限度が定められ、この限度に達すると、被曝の可能性のある区域で働くことは許されていません」と、ブレットナー博士はロイター・ヘルス宛てのEメールに書いた。


核産業で就業する人たちは、放射線による健康被害を知っていると、レラウ博士は述べた。


「こうした従業員はバッジを装着しており、放射線被曝によって起こりうることを確かに知っています」と、レラウ博士はいった。


白血病リスクを増大させるのに、放射線と合わせて、他にどのような要因が関与しているのか、またある種の人たちの放射性被曝に対する感受性が特に高いのか否か、ほとんどわかっていないと、ブレットナー博士は語った。


「現状では、ある人たちが他の人たちより放射線感受性が高いのかどうか、知るための検査法はありません」と、彼女はいった。


だが、自分の意見では、「通常」の核業務が他の産業分野の仕事よりも危険というわけではないと、彼女は述べた。


Lancet Haematol 2015.



【クレジット】


本稿は公益・教育目的の訳稿。


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201572

国際コホート研究「放射線管理労働者の被曝と白血病・リンパ腫による死亡リスク」(概要・序論)



職業、環境、医療診断の事情による特有の反復的または長期的な低線量放射線被曝による白血病とリンパ種のリスクについて、不明なことが多い。われわれは、フランス、英国、米国で雇用された放射線管理下の成人における、長期低線量放射線被曝と白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫による死亡率の関連を数値化した。……



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